


「雨夜の品定め」は、
『源氏物語』の「帚木」巻の前半部分のことで、
光源氏や頭中将ら4人が女性観や体験談を
語り合う場面のことを指します。



・雨夜の品定めのあらすじ
・雨夜の品定めの内容の詳しい解説
⇒上の品、中の品、下の品の説明
・雨夜の品定めの構造
この記事を読むことで、「雨夜の品定め」の
内容についてざっくりと理解することができます。
平安貴族男性の女性論を一緒に見ていきましょう😊
雨夜の品定めのあらすじ



五月雨の季節のある夜のこと、
光源氏は頭中将、左馬頭、藤式部丞とともに
宮中の桐壺に宿直します。
この4人はともに好色者なので、
退屈を紛らわせるために
女性についての論議が始まります。
話題は次第に
「どのような女性が理想的か」
というテーマへと発展し、
身分や性格、教養、容姿などさまざまな観点から、
彼らが接してきた現実の女性たちの姿が
具体例を交えて論じられます。
頭中将は、
欠点を全く持っていない素晴らしい女性と、
一つも取り柄のない女性とは
同じくらい希少だと論じ、
さらに上流の女性よりもむしろ
中流の女性のほうが、
それぞれの気質の特徴がわかりやすくて
面白いと語ります。
その話題をきっかけとして、
上の品、中の品、下の品という
身分の三つの階級について論争が交わされます。
議論が進んでいくと、左馬頭は自らの結論として、
実直で、精神的に落ち着いた女性が
妻としてふさわしいと主張します。
情趣を解する心がそなわっていたら、
幸運なことと捉え、
少し足りないところがあっても、
無理な要求をするべきではないと言います。
夫の浮気に対しては激しい嫉妬を見せず、
また、可愛らしく恨み言をいうような
穏やかで思慮のある女がいいとして、
頭中将もうなずいて同意しています。
その後、左馬頭、頭中将、藤式部丞
それぞれの女性体験談が披露されます。
左馬頭は、
嫉妬深い女・浮気っぽい女の体験談を、
頭中将は、常夏の女(夕顔)の体験談を、
藤式部丞は漢文の得意な賢い女の体験談を語ります。
最後に、左馬頭は、藤式部丞の体験談を受けて
女性論のまとめとして、
漢文や和歌など、未熟者ほど知っている知識を
全てひけらかそうとする傾向があるけれど、
知っていることを全ては言わないでおくのが
女性らしく、嫌味がなくて良いと主張します。
さまざまな意見は出たけれども、結局、
「どのような女性が理想的か」の
明確な答えはまとまらないまま、雨夜の品定めは終わります。


左奥が光源氏、右奥が頭中将。
『源氏物語色紙絵 帚木』伝土佐光元筆 室町時代末期 京都国立博物館
この議論の間、
光源氏はあまり口数は多くはなく、
女性論や体験談を語ることはありません。
しかし、男たちの議論を聞いていて、心の中では
藤壺の宮こそ欠点のない最高の女性であると
思い続けていました。
中の品の定義についての話題は、
空蝉、夕顔、明石の君との恋の
伏線となっています。
雨夜の品定め以降、
光源氏の興味は中流階級に
向かっていくことになります。






雨夜の品定めのわかりやすい解説★理想の女性はこんな人★
登場人物
まず登場人物について確認しておきましょう。
雨夜の品定めの登場人物は、以下の4人です。
光源氏
頭中将
左馬頭
藤式部丞
光源氏は、質問をしたり、居眠りをしたりで
女性論や女性体験談を語ることはしません。
その他の3人が、自身の体験をもとに
「どのような女性が理想的か」を
饒舌に議論します。





頭中将の女性論
頭中将は、欠点を持っていない完璧な女性は
滅多にいないものだと主張します。
容貌がよくて、ふるまいに風情が見られて、
芸事ができる女性には期待するけれど、
本物だと思って通っているうちに、
必ずがっかりするものだと経験を交えて語ります。
また、何の取り柄もない女性と、
一つも欠点のない完璧な女性とは、
同じくらい滅多にいないものだとも語っており、
多くの女性には長所と短所が併存していると言っています。
そして、上の品(上流貴族)の女性は
過保護な親に大事にされるから、
自然と欠点が隠されて
外からは良く見えるものだけれど、
中の品(中流貴族)の女性はそれぞれの個性が
もっとはっきり分かるものだと言います。
下の品に対しては興味すらないと切り捨てます。
その後、左馬頭の女性論に対して同意する形で、
夫婦仲がうまくいかないことがあったら、
気長にじっと我慢する以外に、良い手段はないと語っています。



頭中将の女性体験談
頭中将の語った女性体験談は、
後の「夕顔」巻で登場する
夕顔とのエピソードです。


頭中将は、
以前ひっそりと夕顔を愛人にしていました。
親がおらず、可憐でいじらしい性格の女性です。
頭中将との間に子を一人もうけていましたが、
しばらく通わないうちに
頭中将の妻が浮気に気づいて夕顔を
脅していました。
頭中将が久しぶりに訪れると、
夕顔は恨めしく思っている気持ちを
相手に悟られまいと、
恥ずかしそうに取り繕います。
頭中将は、
女がうるさく言わないので気楽に感じて、
それからまたしばらく通いませんでした。
すると、女はいつの間にか住処を移り、
行方不明になってしまいました。






頭中将は、
嫉妬深い女、浮気する女、頼りない女など
色々な女性がいるが、
結局どれが良いとは決められないものだと結論づけます。
欠点のない女性などいないのだから、
男女の仲はそれぞれに優劣をつけることは
できないと言います。
藤式部丞の女性論
頭中将の女性体験談の後に、
藤式部丞が体験談を語ります。
「賢い女」の話です。
藤式部丞がまだ文章生だった頃、
仕事の相談相手にもなるし
私生活の心がけも立派で、漢学の才もある
女にもとに通っていました。
女は手紙文を漢文で書くような、
博士顔負けの知識人だったので、
その女より無学の藤式部丞は、
女を妻としているのを恥ずかしく思っていました。
やがて愛想をつかして足が遠のき、
しばらくぶりに女のもとを訪れると、
賢い女なので嫉妬は口にしません。
漢文の書き下し文のような
男性的な口調で風邪をひいたことを告げ、
なんと極熱の草薬(にんにく)を食べて
口臭を漂わせていたのです。
藤式部丞は面食らって女の家から逃げ出しました。
この話を聞いていた他の3人は、「作り話だ」と言って笑いました。
左馬頭の女性論



左馬頭は、
結婚相手として理想的な女性が少ないから、
世間の男は良い女性を見つけようと選り好みして、
なかなか結婚できないのだと主張します。
さらに、世の中の夫婦の様子を見ていると、
たいして羨ましいと思うことはないと感想を述べています。
左馬頭は、以下のような特徴を持った女性に
対して否定的に語っています。
・風流なことにこだわって、女らしく、色っぽい態度をとってばかりの女性
・家事ばかりしていて飾り気がない女性
後者の家事ばかりしている女性は、
所帯じみた話ばかりして、
仕事やプライベートであった事を
家で話した時に、良い話し相手に
なってくれないのが大きな欠点なのだそうです。
子どもっぽく素直な女性を
妻として教育するのも良いが、
家事も風流なことも、指示を受けずに
自発的に何もできないようなのは、
頼りなくて残念だと語っています。
逆に、普段は親しみの持てない女性のほうが、
意外と妻として有能だったりするとも言っており、
左馬頭の女性論はふらふらとなかなかまとまりません。



そして、ついに左馬頭は、以下の結論を出します。
家柄も容貌もどうでもいい。
ひどくひねくれた性格でさえなければ、
真面目で、素直で、
精神的に落ち着いている女性を、
結婚相手として考えるのがよいでしょう。
情趣を理解する心が備わっていたなら、
幸運と考え、
少し足りないところがあったとしても、
無理に期待したり要求したりするまい。
穏やかな性格でさえあれば、風流などは、
自然と身に付くものです。
左馬頭は、この結論をだした後にも、
さらに女性論を続けます。
夫への恨み言を我慢して言わず、
ずっと平静を装っておきながら、
突然、山里などに姿をくらまし、
出家してしまうような女性のことを
強い口調で批判しています。
また、夫の愛情が冷めたのに嫌気がさし、
離縁するような女も馬鹿らしいと言い、
どんな時も許し合って連れ添うのが
本当の夫婦というものだと主張しています。
そして、左馬頭の女性論は2つめの結論を出します。
妻は、どのようなことでも心穏やかに、
夫の浮気は「知っている」と
仄めかす程度にしておいて、
恨み言をいう場合も可愛らしく
言うべきです。
そうすれば、夫の妻への愛情も一段と
増すことでしょう。
夫の浮気心も妻の態度によって
おさまることもあります。
あまり夫を自由にさせすぎると、
夫にとっては気が楽だが、夫は妻を
いつのまにか軽く見るようになります。
だから、妻はそれとなく恨み言をいうのがよいでしょう。



その後で左馬頭は、
芸道(木工、絵画、書道)の技に喩えて、
技巧によって風流に見せかけるような人の愛情は
信用がおけないと語り、
自身の女性体験談を披露し始めます。
左馬頭の女性体験談
左馬頭は2つの体験談を語ります。
- 嫉妬深い女の体験談
- 浮気な女の体験談
嫉妬深い女の体験談
まず初めに、嫉妬深い女の体験談を話します。
左馬頭は以前、ある女を妻としていましたが、
それは男の浮気をひどく嫉妬する女で、
左馬頭は、自分のようにつまらない男を
どうしてそこまで愛するのかと
煩わしく思っていました。
女は、夫から嫌われまいと熱心に世話をし、
夫の意にそわないことがないようにしていました。
さらに、もともと気の強い性格なのに
夫の左馬頭にだけは従順な女になって
美しくない容貌も化粧をして、
夫に恥をかかせないように
身だしなみにも気をつけていたのです。
嫉妬深い性格だけがその女の難点だったので、
反省させようとして
「嫉妬深い性格を治さないなら、離縁するぞ」
と左馬頭が申し出たところ、
「浮気に耐えられないから別れましょう」
と女は強がります。
そして、口論になって女は
男の指にかみついてしまいました。
左馬頭は女の家から逃げ出します。
その後、左馬頭は
女のことが忘れられませんでした。
久しぶりに家を訪れると、
女は実家に帰っていましたが
男のために上手に仕立てた着物が
準備してありました。
左馬頭は女をもうしばらく懲らしめようと思い
強情を張っていたら、
女は思い悩んで死んでしまいました。






左馬頭は、
この女との顛末を非常に残念に思っており、
生涯連れ添うような女性としては、
あれくらいの女が良いと
思い出さずにはいられません。
ちょっとした風流事でも生活上の事でも、
相談相手として不足はなく、
染色や裁縫の技術をもっていて、
行き届いていました
と振り返っています。



浮気な女の体験談
次に左馬頭が語った女性体験談は、
浮気な女の話です。
左馬頭は先述した「嫉妬深い女」と同時期に
才女で、身分も容貌も悪くないが、
派手で風流めいた女のもとに通っていました。
風流女を気取っているところが気に入らず、
途絶えがちに通っていたところ、
女は他に男をつくり、こっそり浮気をしていました。
ある夜、左馬頭は、
他の男が女のもとを訪問して
色っぽい和歌の遣り取りをするところを
目撃します。
その際、女は琴をかき鳴らしていて、
その技術は悪くはありませんでした。
しかし、左馬頭は、
浮気っぽく頼りなく
風流に偏っているような女性は、
生涯の伴侶とするにはふさわしくないと判断し、
それ以降、女のもとに通うのをやめてしまいました。



左馬頭のまとめ
左馬頭は、以上2つの体験を考え合わせた上で、
「今は風流で、なよなよとした女を
興味深く思っているかも知れないけれど、
そのような女には気をつけなさい」
と源氏と頭中将に忠告をします。
そういう女性は間違いを起こして、
男まで悪い評判が立ってしまうからとのこと。



雨夜の品定めの最後に、
左馬頭は、女性論のまとめとして、
藤式部丞の体験談(賢い女)を聞いた上で、
次のように語っています。
未熟者は男女ともに、
少し知っているだけの分野を
全て披露しようとするのが残念です。
女同士の手紙に漢字を半分以上
書き混ぜてあったり、
忙しい時に古歌を多く取り込んだ和歌を
詠みかけてくるような人は、
不愉快なものです。
知っていることでも、知らない顔をして、
言いたいことを、一つ二つは
言わないでおくくらいが望ましいのです。



雨夜の品定めは、これ以降も
朝がくるまで行われたと述べられています。
しかし、「どのような女性が理想的か」
明確な結論が出ることなく終わります。


上の品、中の品、下の品の解説
女性の三つの階級
(上の品、中の品、下の品)の議論は、
頭中将が
「中流階級の女性は
それぞれの気質がはっきりしている」
と述べたことをきっかけに始まります。
光源氏が三つの階級の区別について
問うたのに答える形で、
左馬頭(頭中将という見方もあり1)は
中の品についての見解を語り出します。
雨夜の品定めでは、
中の品について詳しく語られており、
上の品については、
中流貴族である左馬頭の手が届く存在では
ないため、詳しくは語られていません。
下の品にいたっては、頭中将が
言っているように貴族たちは特に
関心もないので、語られていません。
ざっくりと
上の品は、三位以上の上流貴族の家柄、
中の品は、四位、五位の中流貴族の家柄、
下の品は六位の地下官人の家柄を指していると思われます。
中の品についてのみ、以下のように
定義が詳しく語られています。
・元々たいした家柄ではない人が
出世して成り上がった場合
・元々は高貴な家柄であるが
時勢によって没落してしまった場合
これらは、どちらも中の品に分類される。
地方の政治を行う受領の中にも
いくつか階級があって、
中の品と呼ぶことができるような家柄もある。
やっとのことで上達部(三位)に
あがれたような者よりも、
むしろ非参議の四位(中の品)で、
家柄も良い者のほうがお金に苦労せず
のんびり暮らしているものだと語られています。
そういう四位の家の娘は大切に育てられているから
欠点なく成長しているケースも多いとのことです。
さらに、左馬頭は、荒れ果てた邸にひっそりと
いじらしい女性が閉じ込められて住んでいたり、
身内の外見が残念で、たいしたことなさそうな
家に、誇り高くて芸事の才能に秀でた娘が
いたりすると、その意外性から心惹かれると
語っています。






『源氏物語』の中でいうと、
空蝉、夕顔、玉鬘、明石の君などが中の品に
該当します。
藤壺の宮や葵の上、紫の上、六条御息所、
朧月夜、朝顔の君、女三の宮などは上の品に
該当します。
- 中の品についての見解を語る部分には、主語が明示されていないため、誰が語ったかは文脈で推測するしかない。左馬頭が話者とする説と、頭中将が話者とする説がある。 ↩︎
雨夜の品定めの構造
| 項目 | 詳細 | |
|---|---|---|
| 1 | 頭中将、光源氏が女からもらった手紙を読む | |
| 2 | 光源氏、頭中将が女からもらった手紙を読みたがる | |
| 3 | 頭中将の女性論 | 欠点のない完璧な女は存在しない |
| 中の品の女は個性がはっきりしている | ||
| 4 | 光源氏、三つの階級の定義を質問する | |
| 5 | 左馬頭、藤式部丞が談義に加わる | |
| 6 | 左馬頭、中の品について語る | 中の品の定義 |
| 上の品は私の手の及ぶ範囲ではない | ||
| 7 | 左馬頭の女性論 | 良い女が少ないから男はなかなか結婚相手が決まらない |
| 風流すぎる女も、ひたすら家庭的な女もNG | ||
| 子どもっぽい素直な女を教育するのも良いが、頼りない | ||
| 8 | 左馬頭の結論 | 実直で精神的に落ち着いた女性を妻とするのが良い |
| 夫婦はどんな時も許しあって連れ添うべき | ||
| 妻は嫉妬の気持ちを可愛らしく仄めかす程度にすべき | ||
| 9 | 頭中将、同意して口を挟む | 夫婦仲がこじれてもじっと我慢をするしかない |
| 源氏と葵の上の夫婦仲が悪いことを思う | ||
| 10 | 光源氏、居眠り(寝たふり?)する | |
| 11 | 左馬頭、人の心を芸道の技に喩える | |
| 12 | 左馬頭の女性体験談 | ①嫉妬深い女の話 |
| ②浮気な女の話 | ||
| 色めいた浮気な女には気をつけるよう忠告する | ||
| 13 | 頭中将の女性体験談 | 常夏の女(夕顔)の話 |
| 欠点を持たない女はおらず、男女の仲とはそれぞれ優劣をつけづらいものだ | ||
| 14 | 藤式部丞の女性体験談 | 漢文ができて賢い女の話 |
| 左馬頭の女性論まとめ | 持っている知識を全ては言わないほうが良い | |
| 15 | 光源氏、藤壺の宮のことを思う |
雨夜の品定め まとめ






筆者は大学時代に
源氏物語研究会に所属していましたが、
女性メンバーはみな、雨夜の品定めの内容に
憤慨していました。
このような女性を苛立たせる内容を書いたのが、
紫式部という女性であったということを忘れてはいけません。
紫式部の父親の官位は最高で正五位下であり
下流貴族~中流貴族どまりでした。
彼女自身が中の品であったから、宮仕えを通して
同じ中の品である女性たちの事情に詳しかったのかも知れません。
そしてまた宮仕えを通して、
男達の女性批評を聞く機会に触れ
雨夜の品定めが成立したのではないでしょうか。



平安時代の女性の読者たちも、
きっと雨夜の品定めには
苛立ちを感じたに違いないでしょう。



雨夜の品定めは、
光源氏が中の品の女性に興味を持つ
きっかけと作る役割を果たしており、
『源氏物語』の構造の中で大きな存在です。
現代語訳でも読んでいて挫折しやすい部分ですが、
さして長大ではないので頑張って最後まで読んでみてください。




当ブログでは、『源氏物語』について
様々な観点から解説する記事を作成しています。
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読んでみてください😊












