源氏物語 初心者朝顔の姫君は、光源氏とはいとこの
関係にあたる女性です。
光源氏が朝顔の花を贈って
アプローチしたことから、
「朝顔の姫君」と呼ばれます。
お互いに好意を持っていましたが、
朝顔の姫君は光源氏の求愛を拒否し、
プラトニックな関係を貫きました。
光源氏を拒み通したという意味で、
『源氏物語』に出てくる女性の中では
特異な存在として、読者の印象に残ります。
平安時代においては
多くの内親王・二世女王が結婚しませんでしたが、
朝顔の姫君もまた、独身を貫く生き方を選んだのです。
筆者朝顔の姫君について
相関図、性格、容姿、年齢、身分
などを詳しく解説しています。
その他、
・朝顔と光源氏の出会いと初登場
・『あさきゆめみし』での描かれ方
・朝顔の姫君の人生年表
についても記載しています。
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朝顔の姫君ってどんな人？性格や年齢を解説！
ここでは、朝顔の姫君の
- 相関図
- 性格
- 容姿
- 年齢
- 身分
について詳しく解説していきます。
まずは相関図と周辺の人間関係から説明していきますね！
朝顔の姫君の家系図と人間関係
こちらは、朝顔の姫君の周辺に
クローズアップした人物相関図です。
『源氏物語』全体の相関図は、
以下の記事に掲載しています。
朝顔の姫君に関わる主要な登場人物について
簡単に紹介します。
朝顔の姫君：
桃園式部卿宮の娘で、
光源氏とはいとこ同士。
光源氏から求愛を受けるが拒み続け、
独身を貫いていく。
賀茂の斎院を8年あまり務めた。
桃園式部卿宮：
朝顔の姫君の父親。
桐壺帝の弟であり、光源氏の叔父である。
「桃園宮」と呼ばれる邸に住んでいた。
女五の宮：
桃園式部卿宮の妹であり、
朝顔の姫君にとっては叔母である。
朝顔の姫君が斎院を辞してからは、
桃園宮で女五の宮と同居している。
おそらく生涯独身であった。
光源氏：
『源氏物語』の主人公。
朝顔の姫君のいとこ。
若い頃から朝顔の姫君に求愛するが
拒まれ続ける。
葵の上：
光源氏の正妻。
光源氏とも朝顔の姫君とも
いとこ同士の関係である。
桃園式部卿宮は、葵の上の母宮に
遠慮して光源氏と朝顔の縁談を
進めなかった。
六条御息所：
前の東宮（故人）の妻で、
現在は未亡人である。
光源氏の恋人だが、
特別に愛されてはいない。
朝顔の姫君は、六条御息所が
光源氏から大事にされていないという
噂を聞き、光源氏とは結婚しないと強く決心する。
紫の上：
光源氏の最愛の妻であるが、
正妻ではない。
光源氏と朝顔の姫君が結婚する
という噂を聞いて動揺し、嫉妬する。
＜人間関係の解説＞
光源氏は、若い頃から
朝顔の姫君に好意を持っており、
アプローチを繰り返していましたが、
朝顔の姫君は光源氏の愛を拒否し続けました。
源氏物語 初心者筆者源氏物語 初心者美しく教養の深い貴女・六条御息所は
光源氏の恋人の一人でしたが、
プライドが高く物事を深く思い詰める性格により
光源氏から疎まれ、正式な妻にはなれませんでした。
その状況は世間に知れ渡っており、
朝顔の姫君の耳にも入ってきていたのです。
朝顔の君は、光源氏に惹かれながらも
「私は六条御息所の二の舞にはなりたくない」
と、その愛を受け入れなかったのです。
「源氏物語色紙貼付屏風 朝顔」土佐光則
源氏物語 初心者
朝顔の姫君は8年あまり賀茂の斎院を務めます。
任期を終えた後も、光源氏は朝顔の姫君に
アプローチをしかけ、世間でも結婚の噂が広がるほどでした。
光源氏の正妻ではなかった紫の上は、
自身の立場が危うくなるのではないかと
不安になり強い嫉妬心を見せています。
結果的に光源氏は朝顔の姫君を諦めます。
朝顔の姫君は出家し、叔母の女五の宮と同じく
生涯独身の道を歩んでいくのです。
源氏物語 初心者朝顔の姫君の性格
朝顔の姫君の性格を簡単にまとめると、
- 冷静で理性的
- 内向的
- 優しい
- 教養が高く上品である
です。
原文を引用しつつ、
具体的に朝顔の姫君の性格を見ていきましょう！
冷静で理性的である
朝顔の姫君は、物事を冷静・理性的に
見ることができる女性でした。
光源氏の熱心な求愛に対して
心が惹かれながらも、
周囲の状況を見つめ、考えた結果、
結婚を拒否していたのです。
結婚したくなかった理由は、前述した通り
六条御息所と同じような目にあいたくなかったからです。
【原文】
『源氏物語』 「葵」の巻より引用
かかることを聞
きたまふにも、朝顔
の姫君
は、「いかで、人
に似
じ」と深
う思
せば、はかなきさまなりし御返
りなども、をさをさなし。
【現代語訳】
このようなことをお聞きになるにつけても、朝顔の姫君は、「何としてでも、人（六条御息所）の二の舞は演じたくない」と強く思っているので、（光源氏へは）ちょっとしたお返事なども、ほとんどしていない。
「このようなこと」というのは、
六条御息所が光源氏から深くは愛されず、
悲しんでいるという噂です。
朝顔の姫君は、
自分も光源氏と男女の仲になったら
いつか嫌われたり飽きられたりして
大事にされなくなるのではないかと恐れ、
光源氏との結婚を拒否していたのです。
また、「朝顔」の巻では、
結婚を拒否するもっと深い理由が読み取れます。
【原文】
『源氏物語』 「朝顔」の巻より引用
「もの思
ひ知
るさまに見
えたてまつるとて、おしなべての世
の人
のめできこゆらむ列
にや思
ひなされむ。」
【現代語訳】
「愛情がある女だと（光源氏に）思っていただいたとしても、一般の女がお褒め申すのと同じに思われるだろう。」
源氏物語 初心者この直後に、
朝顔の姫君には兄弟がたくさんいるが、
みな異母兄弟であり疎遠になっていて、
宮家の経済状況が悪化していると述べられています。
つまり、朝顔の姫君は、もし光源氏と
形式的に正式な結婚をしたとしても
自分には両親がおらず、経済状況が
悪化している状況で、通常の婚姻のように
光源氏をもてなすことができないと判断したのです。
その結果、自分が愛人の一人のような
不名誉な扱いになってしまうと考えたのでしょう。
筆者朝顔の姫君は、自らの感情に突き動かされる
ことはなく、冷静に状況を分析して判断できる
理性的な女性でした。
筆者
内向的である
朝顔の姫君は、理性的であると同時に内向的です。
光源氏のことが好きだったのに、
感情に蓋をして独身の道を突き進んだからです。
理性が先走り、
心を煩わせることから逃げることばかり考え、
少し物事に慎重になりすぎる傾向が見られます。
好きな人のことを知りたい
新しい環境に飛び込んでみたい
といった好奇心や社交性は弱いタイプです。
原文にも、朝顔の姫君が
「もの深くのみ引き入」っていると語られています。
【原文】
『源氏物語』 「朝顔」の巻より引用
世
づかぬ御
ありさまは、年月
に添
へても、もの深
くのみ引
き入
りたまひて、え聞
こえたまはぬを、見
たてまつり悩
めり。
【現代語訳】
（朝顔の姫君の）結婚したがらないご態度は、年月がたつにつれて強くなり、ますます引っ込み思案になりなさって、（光源氏に対して）お返事もなさらないのを、（女房は）困ったことと拝するようである。
光源氏とのやり取りでは、いつも女房を取り次いで
光源氏と話をしており、決して直接声を聞かせる
ことはありませんでした。
「源氏物語図屏風」狩野探幽
源氏物語 初心者周りの女房が光源氏を手引きをして
無理に逢わせようとするのではないかと疑い、
女房に対する警戒心も怠りませんでした。
優しい
朝顔の姫君は、
光源氏の求愛を拒み通しますが、
かといって冷たい態度で
相手を追い払うような女性ではありませんでした。
光源氏に対して好意を持っていたので、
優しい心遣いを見せることも多かったのです。
【原文】
『源氏物語』 「賢木」の巻より引用
院も、かくなべてならぬ御心ばへを見知りきこえたまへれば、たまさかなる御返りなどは、えしももて離れきこえたまふまじかめり。すこしあいなきことなりかし。
【現代語訳】
朝顔の斎院も、（光源氏の）このような普通でない熱心なお気持ちをよくお見知り申し上げていらっしゃるので、時々はお返事なさっていて、あまりそっけなくは返すこともできないようである。少し困ったことである。
朝顔の姫君は、光源氏から手紙をもらって
困惑しつつも、相手の熱心な恋心を思うと
返事を書かざるを得なかったようです。
光源氏の正妻・葵の上が亡くなった際も、
同情をする内容の和歌を贈っています。
理性的だけれど心優しい朝顔の姫君の性格を
晩年の光源氏は高く評価しています。
【原文】
『源氏物語』 「若菜下」の巻より引用
なほ、ここらの人
のありさまを聞
き見
る中
に、深
く思
ふさまに、さすがになつかしきことの、かの人
の御
なずらひにだにもあらざりけるかな。
【現代語訳】
やはり、たくさんの女性の様子を見たり聞いたりした中でも、思慮深い性格である上に心優しい点では、あの方（朝顔の姫君）に匹敵する女性はいなかったことよ。
教養が高く気品がある
朝顔の姫君は教養が高く、筆跡が綺麗で、
センスも良い完璧な貴女でした。
光源氏は、物語中で何度も
朝顔の姫君の筆跡の美しさを高く評価しています。
【原文】
『源氏物語』 「賢木」の巻より引用
御手
、こまやかにはあらねど、らうらうじう、草
などをかしうなりにけり。
【現代語訳】
ご筆跡、繊細な美しさではないが、巧みで、草書など美しくなったものだ。
朝顔の姫君の字は、
繊細な筆跡ではないけれど、書きなれた巧みさが
見える美しさで、草書が得意でした。
和歌や、和歌に添えた言葉に
古歌を引用するなど、教養の高さもうかがえます。
「梅枝」の巻では、六条院の薫物合わせに
自ら調合した香を差し入れていますが、
センスのよさが称賛されています。
「源氏物語画帖 梅枝」土佐光則著 江戸時代
筆者教養と気高さ、優しさ、冷静さを
兼ねそろえた貴女・朝顔の姫君は
光源氏にとって忘れがたい女性となりました。
朝顔の姫君の性格は藤壺の宮に似ています。
理想の女性に似ているからこそ、
光源氏は朝顔の姫君に執着していたのでしょう。
朝顔の姫君の年齢
源氏物語 初心者朝顔の姫君の年齢は、不明です。
本文中に、年齢がわかるような記述はありません。
光源氏よりも少し年上だと言われています。
「朝顔」の巻で、
世間が朝顔の姫君と光源氏のことを
「似
げなからぬ御
あはひ」
（結婚して似合いの縁）
だと評価していることや、
いとこ同士であることから、
2人は近い年齢だったと想像されます。
朝顔の姫君の容姿
朝顔の姫君の容貌は、本文中に記載されて
いないので、わかりません。
光源氏が直接対面したことのある女性に
関しては、容姿が具体的に書かれている
ケースが多いです。
しかし、朝顔の姫君は
光源氏をずっと拒否しており、
対面したことがないので容姿の描写もないのです。
筆者源氏物語 初心者筆者が、朝顔の姫君が美しいと考える理由を
以下に説明します。
朝顔の姫君の顔は美しかった！？
「賢木」の巻では、
光源氏が、朝顔の姫君の容貌を
想像している記述が見られます。
【原文】
『源氏物語』 「賢木」の巻より引用
「まして、朝顔
もねびまさりたまへらむかし」と思
ほゆるも、ただならず、恐
ろしや。
【現代語訳】
「ましてや、お顔も、より美しくなられただろう」と（光源氏は朝顔の姫君の容貌を）想像すると、心が動くのも、恐ろしいことよ。
朝顔の姫君は昔に比べて、
筆跡がとても美しくなっていました。
「ましてや容貌もさらに美しくなっているだろう」
と光源氏は想像を膨らませて
ドキドキしていたのです。
ここで、
「ねびまさる」（成長して美しくなる）
という言葉が使われていることから
光源氏は若い頃に朝顔の姫君の容姿を
垣間見したことがあると推測されますね。
源氏物語 初心者光源氏の父・桐壺帝は、
妹の女五の宮を大切に思っていたと
「朝顔」の巻に語られています。
独身であった女五の宮は、
姪の朝顔の姫君を我が子のように
可愛がっていたであろうから、
自然に光源氏が幼い頃の朝顔の姫君の
姿を見る機会も
あったのだと想像されます。
光源氏は幼い頃に見た、
朝顔の姫君の美しい容姿が
忘れられず、大人になってからも
慕っていたのでしょう。
「源氏物語色紙貼付屏風 朝顔」土佐光則
朝顔の姫君の身分
朝顔の姫君は、桃園式部卿宮の娘です。
桃園式部卿宮は、桐壺帝の弟であり、
過去の天皇の息子（親王）です。
朝顔の姫君は、
親王の娘であるから、
女王（二世女王・天皇の孫）
という身分となります。
朝顔の姫君は、賀茂の斎院に任命されています。
斎院は、通常は内親王（天皇の娘）が
任じられるべきものでした。
朝顔の姫君は、内親王に準ずる立場として
扱われていたのでしょう。
扉を開けようとするが、錆ついていて開かない様子を見て、世の移ろいを感じる。
「源氏物語手鑑 槿」土佐光吉筆
★皇族女性の独身主義について★
朝顔の姫君が独身を貫いたことは、
平安時代の女性にしては珍しいと
思う人もいるかも知れません。
源氏物語 初心者史実では、当時の二世女王は
内親王に準ずる立場として
独身を貫く人も多かったのです。
ただし結婚が禁じられていた
わけではありません。
二世女王の結婚相手としては、
親王もしくは一世の源氏が
望ましいと考えられていました。
そういう意味で、朝顔の姫君と
光源氏とはお似合いだったのです。
父の桃園式部卿宮も娘と光源氏の結婚には
決して難色を示してはいませんでした。
源氏物語 初心者奈良時代の西暦757年に制定された
『養老律令』における「継嗣令」で、
内親王は臣下との結婚が禁じられており
皇族との結婚しか許されていなかったからです。
これは、皇族の血の神聖さを保持するための
規定でした。
桓武天皇＜在位781年～806年＞以降、
この規定は完全には守られなくなり、
内親王は皇族のみならず
臣下（藤原氏）とも
結婚するようになっていきました。
※『源氏物語』の時代設定は
醍醐朝＜在位897年～930年＞であると言われています。
女五の宮・朝顔の姫君が
独身を貫いたのは、「後嗣令」における
皇女独身主義の思想の名残なのでしょう。
朝顔の姫君と光源氏の出会いと初登場シーン
源氏物語 初心者朝顔の姫君と光源氏の出会いのシーンは、
原文中に描かれていません。
筆者【原文】
式部卿宮
の姫君
に朝顔奉
りたまひし歌
などを、すこしほほゆがめて語
るも聞
こゆ。
【現代語訳】
式部卿宮の姫君に、朝顔の花を差し上げなさった時の和歌などを、少し言葉を変えて語るのが聞こえる。
「帚木」の巻では、
光源氏が紀伊守邸へ方違えに行き、
空蝉と出会うお話が語られています。
紀伊守邸に仕える女たちは、
色好みで有名な光源氏の
噂話に花を咲かせていて
光源氏が朝顔の姫君に贈った和歌を
口ずさんでいたのです。
源氏物語 初心者「式部卿宮の姫君に朝顔奉りたまひし歌」は
残念ながら本文中に登場しません。
光源氏がどのような経緯で
朝顔の姫君に恋をして
どんな和歌でアプローチをしかけたのかは
書かれておらず、わからないのです。
ただし、光源氏はこの時、17歳だったので、
これ以前から朝顔の姫君に求愛していた
ことは確かです。
源氏物語 初心者「桐壺」と「帚木」の間に
「輝く日の宮」という散逸した巻が
あったという説があり、
光源氏と花散里の馴れ初め、
光源氏と藤壺の一度目の密通などが
書かれていたと推測されています。
光源氏と朝顔の姫君の最初の出会いもこの巻に
詳細が書かれていたのかも知れませんが、
「輝く日の宮」の巻は現存しておらず、
現存している『源氏物語』の写本には、
2人の出会いは書かれていません。
「源氏物語画帖」土佐光則筆
『あさきゆめみし』に描かれた朝顔の姫君
源氏物語 初心者ここでは、『あさきゆめみし』における
朝顔の姫君の特徴を紹介します。
名前の表記「槿の姫君」
漫画『あさきゆめみし』において、
朝顔の姫君は、「槿の姫君」と
いう表記で登場します。
朝顔の姫君は
冷静で凛とした印象の女性なので、
「朝顔」よりも「槿」の文字のほうが
しっくりくると作者は判断されたのでしょう。
源氏物語 初心者独自エピソード
『あさきゆめみし』では、
原作にはないオリジナルのストーリーが
描かれています。
それは、朝顔の姫君の母親に関するエピソードです。
槿の姫君がまだ幼い頃の出来事。
ある夜、母が一人で静かに
陵王の舞を舞っているのを目撃する。
陵王は、世にもまれな美貌であったため、
おそろしい面で素顔を隠して戦にのぞんだ
中国の北斉の王です。
母の舞の姿を見た朝顔の姫君は、
陵王とは反対に
すべての妻は
貞淑な妻という面の裏側に
押し曲げられた自分を隠して
いるだと悟りました。
その時から槿の姫君は、
男女の愛の戦に関わりたくないと
思うようになりました。
原作の『源氏物語』では、
朝顔の姫君の母親に関しては一切
語られておらず、朝顔の姫君が
結婚を強く拒否するきっかけも詳しくは
語られていないのです。
『あさきゆめみし』では
オリジナルエピソードの挿入により、
朝顔の姫君の人格形成の部分が
読者に伝わりやすくなっており
感情移入しやすいストーリーになっています。
槿の姫君の顔
『あさきゆめみし』に描かれた
朝顔の姫君は、
少しのっぺりとしていますが
整った顔立ちの美人として描かれています。
朝顔の姫君の品の良さ、冷静さがよく表れていますね。
顔の系統としては、六条御息所に似ています。
朝顔の姫君の詠んだ和歌を紹介
源氏物語 初心者「朝顔」の巻で
朝顔の姫君が光源氏と交わした
印象的な和歌を紹介しましょう。
光源氏 ⇒ 朝顔 （贈歌）
見し折の つゆ忘られぬ 朝顔の
花の盛りは 過ぎやしぬらむ
【意味】
昔拝見したあなたの姿がどうしても
忘れられません
朝顔の花のようなあなたの容姿は
盛りを過ぎてしまいましたか
朝顔 ⇒ 光源氏（返歌）
秋果てて 霧の籬に むすぼほれ
あるかなきかに 移る朝顔
【意味】
秋が終わって
霧の立ち込める垣根にしぼんで
今にも枯れてしまいそうな
朝顔の花のような私です
＜光源氏の和歌の解説＞
「見し」はかつて男女の関係を
結んだという意味。
「朝顔」は女性の寝起きの顔を
暗示しています。
光源氏は、一度も朝顔の姫君と
共寝したことがないのに、
「あの逢瀬から時がたって、
容貌が衰えたのではないですか？」
とからかっています。
＜朝顔の姫君の和歌の解説＞
「あなたのおっしゃる通り
朝顔の花がしぼむように
私は女の盛りを過ぎてしまいました」
という意味の和歌です。
源氏物語 初心者光源氏は、「賢木」の巻でも
朝顔の姫君とかつて逢瀬を遂げたことが
あるかのような和歌を詠んでいます。
かけまくは かしこけれども そのかみの
秋思ほゆる 木綿襷かな
（口にして言うのは畏れ多いことですが
その昔の秋の出来事が思い出されます）
朝顔の姫君は返歌にてはっきりと
逢瀬について否定しています。
そのかみや いかがはありし 木綿襷
心にかけて しのぶらむゆゑ
（その昔どうだったとおっしゃるのですか
心の底から思い慕うとおっしゃるわけは）
源氏物語 初心者光源氏にとって朝顔の姫君は
長年恋い慕っている求愛の相手でありながら
若い頃から文を交わす友人のような
存在でもありました。
だからこそ、光源氏は
逢ったこともないのに
逢ったことがあるかのような和歌を贈って
朝顔の姫君をからかって
相手の反応を見て楽しんでいるのでしょう。
朝顔の姫君の人生年表
『源氏物語』本文中の記述をまとめて、
朝顔の姫君の人生年表を作成しました。
朝顔の姫君の年齢は不明なので記載していませんが、
光源氏の年齢と同じくらいと考えてください。
| 巻名 | エピソード | 光源氏の年齢 |
|---|---|---|
| 帚木 | かつて光源氏は朝顔の姫君に、和歌を贈って求愛したことが語られている。 | 17歳 |
| 葵 | 六条御息所が光源氏から疎かにされているという噂を聞いた朝顔の姫君は、自分は二の舞を踏むまいと決意する。 しかし、求愛し続けてくる源氏に心が惹かれている。 葵の上が亡くなり、光源氏は朝顔の姫君に近況報告の文を贈る。朝顔の姫君は同情の和歌を返す。 | 22歳 |
| 賢木 | 春、朝顔の姫君、賀茂の斎院となる。 秋、光源氏、紫野斎院にこもる朝顔の姫君と和歌を贈答する。 | 24歳 |
| 薄雲 | 朝顔の姫君の父、桃園式部卿宮、死去。 | 32歳 |
| 朝顔 | 朝顔の姫君、父の喪のために賀茂斎院を辞す。 9月、朝顔の姫君、旧邸・桃園宮に移る。叔母の女五の宮と同居する。 光源氏、朝顔を訪問するが、冷たくあしらわれる。 光源氏と朝顔の姫君の結婚の噂が世間に流れる。 紫の上、嫉妬する。 冬、光源氏は桃園宮を再訪問。 朝顔の姫君と和歌を贈答する。 朝顔の姫君は、光源氏の求愛を断固として拒む。 | 32歳 |
| 少女 | 朝顔の姫君、父宮の喪が明ける。 朝顔と源氏、和歌の贈答をする。 源氏、朝顔に多くの贈り物をする。 女五の宮、朝顔の姫君に、生前の父宮・桃園式部卿宮の思いを語り、光源氏との結婚を勧める。 朝顔の姫君は結婚の意志がない。 光源氏は強いて結婚話を進めようとせず、朝顔の姫君を諦める。 | 33歳 |
| 梅枝 | 六条院で薫物合わせが開催。 朝顔の姫君、香を調合して文とともに源氏に贈る。源氏と和歌を贈答する。 | 39歳 |
| 若菜下 | 光源氏、紫の上に朝顔の姫君が出家していること、およびその人柄の素晴らしさを語る。 | 47歳 |
朝顔の姫君が賀茂の斎院を辞した頃には、
光源氏は32歳になっており、
朝顔の姫君も同じくらいの年齢になっていました。
若い頃の光源氏は女性に対して
非常に強引でしたが、
中年を迎えた光源氏には、
もはや強引さはありません。
結婚に乗り気でない相手に、
強いて縁談を進める気にもならず、
33歳の頃に光源氏は朝顔の姫君を諦めたのです。
朝顔の姫君に嫉妬していた紫の上にとっては、
ほっと一安心というところでしょうか。
ただ、7年後に光源氏は女三の宮を
正室として迎えます。
朝顔の姫君は、女三の宮の登場の伏線のような、
前座のような存在だったということになります。
この記事では、
『源氏物語』の朝顔の君について
詳しく解説しました。
当ブログでは、『源氏物語』について
様々な観点から解説する記事を作成しています。
もし興味があれば、他の記事も
読んでみてください😊
