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撫子
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30代後半の主婦。
高校生の頃から源氏物語に興味を持ち始めました。大学では源氏物語を研究し、日本語日本文学科を首席卒業しました。
30代になり、源氏物語を改めて学びなおしています。
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源氏物語の巻名の意味・由来をわかりやすく解説!

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源氏物語の巻名の意味・由来をわかりやすく解説!

源氏物語 初心者
『源氏物語』の巻名ってどんな意味があるの?由来を教えて!


この記事では、
『源氏物語』54帖の巻名の意味と由来を
解説していきます!

『源氏物語』の巻名はほとんど
作中の和歌が由来となっています。

そのため、巻名にちなむ和歌の紹介が中心となります。

目次

源氏物語<第一部>巻名の意味・由来

桐壺きりつぼ」の巻

光源氏の母親が桐壺の更衣
であったことに由来する巻名です。
※桐壺とは、内裏の中にある後宮の殿舎の一つ。

\平安京の内裏図はこちら/

帚木ははきぎ」の巻

物語中で光源氏と空蝉が交わした
和歌に由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 空蝉(贈歌)
帚木ははきぎの心を知らで園原そのはら
道にあやなく惑ひぬるかな


【現代語訳】
近づけば消えるという帚木のような
あなたの心も知らず
園原への道に空しく迷ってしまいました

空蝉 ⇒ 光源氏(返歌)
数ならぬ伏屋ふせやに生ふる名の憂さに
あるにもあらず
ゆる帚木

【現代語訳】
数にも入らない身分として
生きる私は情けないので
存在しても触れられない帚木のように
あなたの前から姿を消します

※帚木とは、遠くから見ると、
ホウキを立てたように見えるが、
近づくと見えなくなる伝説上の木のこと。
逢えそうで逢えない女性・空蝉の君を
帚木に喩えた歌です。

空蝉うつせみ」の巻

物語中で光源氏と空蝉が交わした和歌に
由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 空蝉(贈歌)
空蝉の身をかへてけるのもとに
なほ人がらのなつかしきかな


【現代語訳】
蝉が抜け殻となるように、
衣を脱いで逃げていったあなたですが
やはり人柄が恋しく感じられます

空蝉 ⇒ 光源氏(返歌)
空蝉のに置く露の木隠こがくれれて
忍び忍びに濡るる袖かな


【現代語訳】
蝉の抜け殻の羽に置く露が
木に隠れて見えないように
私もひっそりと涙で袖を濡らしております

空蝉とはセミの抜け殻のことです。

薄衣を一枚残して寝所から
逃げ去った女君に対して、
光源氏は「空蝉=セミの抜け殻」
を詠みこんだ和歌を贈りました。

女君の残した衣を、セミの抜け殻に
喩えたのです。

夕顔ゆうがお」の巻

物語中で光源氏と夕顔が交わした和歌に
由来する巻名です。

夕顔 ⇒ 光源氏(贈歌)
心あてにそれかとぞ見る白露の
光そへたる夕顔の花


【現代語訳】
当て推量にあなたではないかと思います
白露の光を添えて美しい夕顔の花は

光源氏 ⇒ 夕顔(返歌)
寄りてこそそれかとも見めたそかれに
ほのぼの見つる花の夕顔


【現代語訳】
もっと近寄って
誰なのかはっきり見てはいかがでしょう
黄昏時にぼんやりと見えた花の夕顔を

光源氏は、この巻で
後に「夕顔」と呼ばれる女君に夢中になります。
その女君の家には、
白い夕顔の花が咲いていたため、
2人は「夕顔」を含んだ和歌を詠み合いました。

若紫わかむらさき」の巻

紫の上の幼少時代を描いていることから、
「若紫」という巻名となったと考えられています。

本文中の和歌には「若草」や「紫」は登場するが、
「若紫」という言葉は登場しません。

末摘花すえつむはな」の巻

光源氏の独詠歌に由来する巻名です。

なつかしき色ともなしに何にこの
すゑつむ花を袖に触れけむ


【現代語訳】
親しみを感じる花でもないのに
どうしてこの末摘花と
結ばれてしまったのだろう

末摘花すえつむはなは、紅花べにばなの別名です。
紅花は紅鼻と意味をかけています。
この巻で光源氏が関係を持った
女君の鼻が赤かったので、
「末摘花(紅花)」の和歌が詠まれました。

紅葉賀もみじのが」の巻

この巻では、
朱雀院への行幸ぎょうこうの様子が描かれています。
紅葉の下で管弦や舞が行われたことから、
「紅葉賀」の巻名となりました。

花宴はなのえん」の巻

この巻では、
宮中で催された桜の宴の様子が描かれています。
桜の宴が「花宴」として巻名となりました。

あおい」の巻

物語中で光源氏と源典侍が交わした和歌に
由来する巻名です。

源典侍 ⇒ 光源氏(贈歌)
はかなしや人のかざせるあふひゆゑ
神の許しの今日を待ちける


【現代語訳】
ああむなしい、
他の女と一緒にいるとは
神の許す今日(賀茂祭)を待っていましたのに

光源氏 ⇒ 源典侍(返歌)
かざしける心ぞあだにおもほゆる
八十氏人になべて逢ふ日を


【現代語訳】
好色者のあなたの心の方こそ
信用ならないですね
たくさんの男に見境なくなびくのですから

この巻では、
賀茂祭かもまつりの様子が描かれています。
賀茂祭は使者が葵を頭にかざすことから、
葵祭あおいまつりとも言われています。
和歌では「あふひ(葵)」と「逢ふ日」を
かけています。
※「あふひ」は「あおい」と発音します。

賢木さかき」の巻

物語中で光源氏と六条御息所が
交わした和歌に由来する巻名です。

六条御息所 ⇒ 光源氏(贈歌)
神垣はしるしの杉もなきものを
いかにまがへて折れる榊ぞ


【現代語訳】
こちらの野の宮には
目印となる杉もないのに
どう間違えて
折って持って来た榊なのでしょう

光源氏 ⇒ 六条御息所(返歌)
少女子があたりと思へば榊葉の
香をなつかしみとめてこそ折れ


【現代語訳】
神に仕える少女がいる辺りだと思うと
榊葉の香りが恋しくなり
探し求めて折ったのです

榊(さかき)は、神社にお供えする
神聖な植物のこと。

花散里はなちるさと」の巻

物語中で光源氏が詠んだ和歌に
由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 麗景殿女御(贈歌)
橘の香をなつかしみほととぎす
花散る里をたづねてぞとふ


【現代語訳】
橘の香りを懐かしく思って
ほととぎすが花の散ったこのお邸に
やって参りました

この和歌は、下記2首の古歌が踏まえられています。

「五月待つ花橘はなたちばなの香をかげば昔の人の袖の香ぞする」
(古今集夏、一三九、読人知らず)
「橘の花散里の郭公片ほととぎす恋しつつ鳴く日しぞ多き」
(万葉集八、一四七七、大伴旅人)

平安時代の和歌の世界では、橘の花の香は
昔を懐かしむ意味を持っていました。
光源氏の詠んだ「花散里」の和歌は、
父桐壺帝の御代を懐かしむ気持ちが込められています。

須磨すま」の巻

光源氏が須磨に退去することから、
この巻は「須磨」と名付けられています。

明石あかし」の巻

光源氏が明石に滞在することから、
この巻は「明石」と名付けられています。

澪標みおつくし」の巻

物語中で光源氏と明石の君が
交わした和歌に由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 明石の君(贈歌)
みをつくし恋ふるしるしにここまでも
めぐり逢ひけるえには深しな


【現代語訳】
身を尽くして恋いこがれていた印として
ここで巡り合うことができるとは
私たちの縁は深いのですね

明石の君 ⇒ 光源氏(返歌)
かずならで難波なにはのこともかひなきに
などみをつくし思ひそめけむ


【現代語訳】
人数にも入らない身の上で
全て諦めておりましたのに
どうして身を尽くしてまで
お慕いすることになったのでしょう

澪標みおつくし」とは
河口に設置する航路の標識のこと。

「澪標」は和歌では
「身を尽くし」にかけられます。
「しるし」や「難波」は「澪標」の縁語となっています。

蓬生よもぎう」の巻

この巻では、明石から帰京した光源氏が
久しぶりに末摘花を訪問します。

荒れ果てた末摘花の邸に、
よもぎがたくさん生えていたことから、
この巻は「蓬生よもぎう」と名付けられました。

関屋せきや」の巻

この巻では、
光源氏と空蝉が逢坂の関で再会する
場面が描かれているため、
「関屋」(関守が住む小屋)が巻名となりました。

本文中にも「関屋」から人々が出てくる様子が
活写されています。

絵合えあわせ」の巻

藤壺の中宮の御前にて物語絵合せ、
冷泉帝の御前にて絵合せが開催されたことから、
この巻は「絵合」と名付けられました。

松風まつかぜ」の巻

物語中で明石の尼君の詠んだ和歌に
由来する巻名です。

身を変へて一人帰れる山里に
聞きしに似たる松風ぞ吹く

【現代語訳】
尼の姿となって一人で帰ってきた山里に
昔聞いたことがあるような松風が吹いている

この巻で、明石の君と尼君は、
明石から上京します。
京の大堰山荘の周辺には、松風が吹いていました。

薄雲うすぐも」の巻

物語中で光源氏が詠んだ独詠歌に
由来する巻名です。

入り日さす峰にたなびく薄雲は
もの思ふ袖に色やまがへる


【現代語訳】
夕日がさしている峰の上に
たなびいている薄雲は
悲しむ私の喪服の袖の色に似せたのだろうか

藤壺の宮が崩御し、悲しみに暮れる光源氏。
空を見上げると、夕日が明るく射す中、
山ぎわに薄い雲がたなびいていました。

朝顔あさがお」の巻

物語中で光源氏と朝顔の君が
交わした和歌に由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 朝顔の君
見し折のつゆ忘られぬ朝顔の
花の盛りは過ぎやしぬらむ


【現代語訳】
昔拝見したあなたの姿が
どうしても忘れられません
朝顔の花のようなあなたの容姿は
盛りを過ぎてしまいましたか

朝顔の君 ⇒ 光源氏
秋果てて霧のまがきにむすぼほれ
あるかなきかに移る朝顔


【現代語訳】
秋が終わって
霧の立ち込める垣根にしぼんで
今にも枯れてしまいそうな
朝顔の花のような私です

「朝顔」は女性の寝起きの顔を暗示する言葉。

少女おとめ(乙女)」の巻

物語中で光源氏と夕霧が詠んだ和歌に
由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 筑紫の五節
乙女子も神さびぬらし天つ袖
古き世の友よはひ経ぬれば


【現代語訳】
少女だったあなたも
神さびたことでしょう
天の羽衣を着て舞った昔の友も
年をとってしまったので

夕霧 ⇒ 五節舞姫
日影にもしるかりけめや少女子が
天の羽袖にかけし心は


【現代語訳】
日の光に照らされて
はっきりおわかりになったでしょう
あなたが天の羽衣を着て舞う姿に
恋をした私のことが

光源氏は、昔、五節舞姫だった女君に、
息子の夕霧は、現在の五節舞姫に
それぞれ和歌を贈りました。

光源氏は、過去の恋を懐かしみ、
夕霧は、始まったばかりの恋に胸を焦がします。

玉鬘たまかずら」の巻

物語中で光源氏が詠んだ独詠歌に
由来する巻名です。

恋ひわたる身はそれなれど玉かづら
いかなる筋を尋ね来つらむ


【現代語訳】
ずっと恋い慕っていた私は
変わっていないが
姫君はどのような縁で
ここにたどり着いたのであろうか

玉鬘とは、古代の装飾品の名称。
多くの玉を糸に通した髪飾りのこと。
「玉鬘」と「筋」は縁語。

初音はつね」の巻

物語中で明石の君が詠んだ和歌に
由来する巻名です。

明石の君 ⇒ 明石の姫君(贈歌)
年月を松にひかれて経る人に
今日鴬の初音聞かせよ


【現代語訳】
長い年月
子どもの成長を待ち続けていた私に
今日はその初音を聞かせてください

明石の姫君は、紫の上の養女となっており、
実母・明石の君と別れて何年もたっていました。
明石の君は、「せめて娘の声が聞きたい」という
願いをこもて「初音聞かせよ」と詠みました。

胡蝶こちょう」の巻

物語中で紫の上と秋好中宮が交わした
和歌が由来となっている巻名です。

紫の上 ⇒ 秋好中宮(贈歌)
花園の胡蝶こてふをさへや下草に
秋待つ虫はうとく見るらむ


【現代語訳】
花園の胡蝶までが下草に隠れて
秋を待っている松虫(秋好中宮)は
つまらないと思うでしょうか

秋好中宮 ⇒ 紫の上(返歌)
胡蝶にも誘はれなまし心ありて
八重山吹やへやまぶきを隔てざりせば

【現代語訳】
胡蝶にも誘われたいくらいでした
八重山吹の隔てがありませんでしたら

春を愛する紫の上と
秋を愛する秋好中宮との戯れの和歌。

ほたる」の巻

物語中で玉鬘が詠んだ和歌に由来する巻名です。

玉鬘 ⇒ 蛍兵部卿宮(返歌)
声はせで身をのみ焦がす蛍こそ
言ふよりまさる思ひなるらめ


【現代語訳】
声には出さず
ひたすら身を焦がしている蛍の方が
あなたのように言葉にするより
もっと深い思いなのでしょう

この巻では、兵部卿宮が、
蛍の光に照らされた玉鬘の姿を見てしまう
エピソードが描かれています。

常夏とこなつ」の巻

物語中で光源氏が詠んだ和歌に
由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 玉鬘
撫子のとこなつかしき色を見ば
もとの垣根を人や尋ねむ


【現代語訳】
撫子の花のように
いつ見ても美しいあなたを見たら
母親のことを内大臣はたずねられることだろう

「とこなつかし(いつ見ても心惹かれる)」
と「常夏」をかけた和歌。
常夏は、撫子の異名。

篝火かがりび」の巻

物語中で光源氏と玉鬘が交わした
和歌に由来する巻名です。

光源氏 ⇒ 玉鬘(贈歌)
篝火にたちそふ恋の煙こそ
世には絶えせぬ炎なりけれ


【現代語訳】
篝火に沿うように立ち上る恋の煙こそ
永遠に消えることのない
私の思いの炎なのです

玉鬘 ⇒ 光源氏(返歌)
行方なき空に消ちてよ篝火の
たよりにたぐふ煙とならば


【現代語訳】
果てしない空に消して下さい
あなたの恋が
篝火と一緒に立ち上る煙と
おっしゃるならば

光源氏は、養女・玉鬘に対する恋心を
篝火の炎に喩えて表現しました。

野分のわき」の巻

この巻では、野分(台風)が
都を襲ったエピソードが
描かれていることから、
「野分」と名付けられています。

「行幸」の巻

物語中で光源氏と玉鬘が交わした和歌に
由来する巻名です。

玉鬘 ⇒ 光源氏(贈歌)
うちきらし朝ぐもりせし行幸には
さやかに空の光やは見し


【現代語訳】
雪が散らついて曇った朝の行幸では
はっきりと日の光(帝)は
見えませんでした

光源氏 ⇒ 玉鬘(返歌)
あかねさす光は空に曇らぬを
などて行幸に目をきらしけむ


【現代語訳】
日の光は曇りなく輝いていましたのに
どうして行幸の日に
ちらつく雪で目を曇らせていたのですか

この巻では、冷泉帝の大原野行幸が描かれています。

藤袴ふじばかま」の巻

物語中で夕霧が詠んだ和歌に由来する
巻名です。

夕霧 ⇒ 玉鬘
同じ野の露にやつるる藤袴
あはれはかけよかことばかりも


【現代語訳】
あなたと同じ野の露に濡れて
しおれている藤袴のような私に
優しい言葉をかけて下さい
ほんの少しでも

この巻で、夕霧は藤袴をさしだしつつ
玉鬘に言い寄りました。

藤袴は、藤衣(喪服)の意味を
含むとともに
ゆかりの色(藤色=紫色)の意味も持ち、
縁者同士の交流を表します。
この時期、
玉鬘は祖母・大宮の喪中でした。

真木柱まきばしら」の巻

物語中で真木柱と北の方が交わした
和歌に由来する巻名です。

真木柱 ⇒ 北の方(贈歌)
今はとて宿かれぬとも馴れ来つる
真木の柱はわれを忘るな


【現代語訳】
今はもうこの家を出て行きますが
私が慣れ親しんだこの真木の柱は
私を忘れないでください

北の方 ⇒ 真木柱(返歌)
馴れきとは思ひ出づとも何により
立ちとまるべき真木の柱ぞ


【現代語訳】
馴れ親しんで来た
真木柱だと思い出しても
どうしてこの邸にとどまっていられましょうか

「真木」は「柱」にかかる敬語。
髭黒の姫君(真木柱)は思い出のつまった
家の柱に別れを告げた。

梅枝うめがえ」の巻

薫物合わせの後の饗宴にて、
弁少将(後の紅梅大納言)が
催馬楽の「梅が枝」を歌ったことに
ちなんだ巻名。
また、冒頭では朝顔の君が梅の枝に
文をつけて光源氏に贈っている。

藤裏葉ふじのうらば」の巻

内大臣が藤花の宴で、
「藤の裏葉の」と古歌を口ずさんだことに
由来する巻名です。

「春日さす藤の裏葉のうらとけて君し思はば我も頼まむ」
(後撰集春下、一〇〇、読人しらず)

この和歌の意味は、
「春の日が射す藤の裏葉ではないが、
心のうらが溶けて、
あなたが私を信頼してくれたら
私もあなたを信頼しましょう」
というものです。

内大臣が、夕霧の心に歩み寄る気持ちを表しています。

源氏物語<第二部>巻名の意味・由来

若菜上わかな じょう」の巻若菜下わかな げ」の巻

物語中で光源氏が詠んだ和歌に由来する巻名です。

小松原末の齢に引かれてや
野辺の若菜も年を摘むべき


【現代語訳】
小松原の将来のある年齢にあやかって
野辺の若菜である私も長生きするでしょう

この巻では、光源氏四十の賀の祝いとして、
玉鬘が若菜を献上しています。

柏木かしわぎ」の巻

落葉の宮の母・一条御息所の和歌に
由来する巻名です。

柏木に葉守の神はまさずとも
人ならすべき宿の梢か


【現代語訳】
柏木に葉守の神は
いらっしゃらなくても
むやみに人を近づけてよい
梢ではないのです

一条御息所邸の庭には柏の木と楓が
枝を差し交して立っていました。

夕霧はその様子を連理の枝に見立てて、
落葉の宮との親交を望んだが、
母の一条御息所に
「人ならすべき宿の梢か」
(みだりに人を近づけていい梢ではない)
と断られてしまいました。

歌中の「葉守の神」とは
樹木を保護する神様のことで、
柏木に宿ると信じられていました。

横笛よこぶえ」の巻

物語中で夕霧が詠んだ和歌に由来する巻名です。

横笛の調べはことに変はらぬを
むなしくなりし音こそ尽きせね


【現代語訳】
横笛の音色は
昔に比べて特に変わりませんが
亡くなった人を悼む泣き声は
絶えることがありません

この巻では、柏木の遺品である横笛が
光源氏の手に渡るまでが描かれています。

鈴虫すずむし」の巻

物語中で光源氏と女三の宮が交わした和歌が
由来となっている巻名です。

女三の宮 ⇒ 光源氏(贈歌)
おほかたの秋をば憂しと知りにしを
ふり捨てがたき鈴虫の声


【現代語訳】
秋という季節は
辛いものと分かっていますが
鈴虫の声だけは飽きずに
聞き続けていたいものです

光源氏 ⇒ 女三の宮(返歌)
心もて草の宿りをいとへども
なほ鈴虫の声ぞふりせぬ


【現代語訳】
あなたはご自分の意志で
この世をお捨てになったのですが
やはりお声は鈴虫と同じように変わりませんね

この巻で、光源氏は女三の宮の部屋の前栽に
鈴虫を放っています。

平安時代の鈴虫は、
現代の松虫であることに注意。
平安時代の松虫は、現代の鈴虫。

夕霧ゆうぎり」の巻

夕霧が落葉の宮に詠んだ
下記の和歌が由来となっている巻名です。

山里のあはれを添ふる夕霧に
立ち出でむ空もなき心地して


【現代語訳】
山里の物悲しい風情を添える夕霧のせいで
帰って行く気持ちにもなれません

夕霧は、落葉の宮が滞在する
小野の山荘を訪れました。
夕方になると、空には霧が立ち込めていました。

御法みのり」の巻

紫の上が花散里に詠んだ
和歌が由来となっている巻名です。

絶えぬべき御法ながらぞ頼まるる
世々にと結ぶ中の契りを


【現代語訳】
私の人生で最後の法会ですが
現世も来世もと結んだあなたとの縁を
頼もしく思います

自らの寿命を察知した紫の上は、
二条院にて法華経供養を行いました。
ここでの「御法」とは法要のことを指します。

まぼろし」の巻

光源氏の独詠歌が由来となっている巻名です。

大空をかよふ幻夢にだに
見えこぬ魂の行方たづねよ


【現代語訳】
大空を飛んでいく幻術士よ
夢の中にさえ
現れない亡き人の魂の
行く方を探してくれ

「大空をかよふ幻」とは、
空を自由に飛ぶことのできる幻術士のこと。
中国の漢詩「長恨歌」に基づく発想です。
「長恨歌」では、幻術士が楊貴妃の魂を
探し求め、仙界にて見つけ出しました。

この和歌は、光源氏が
亡くなった紫の上の魂を
探し求めたいと願ったものです。

源氏物語<第三部>巻名の意味・由来

匂宮におうみや」の巻

2人の貴公子が
にお兵部卿宮ひょうぶきょうのみやかお中将ちゅうじょう」と
呼ばれているという本文中の記述にちなんだ巻名です。

紅梅こうばい」の巻

按察使大納言が、自邸の庭に咲いた
美しい紅梅の枝を折って
匂宮に届けたことに由来する巻名です。

竹河たけかわ」の巻

物語中で薫と藤侍従が詠んだ和歌が
由来となっている巻名です。

薫 ⇒ 玉鬘(贈歌)
竹河の橋うちいでし一節に
深き心の底は知りきや


【現代語訳】
竹河を歌った
あの歌の文句の一端から
私の深い心を知っていただけましたか

藤侍従 ⇒ 薫(返歌)
竹河に夜を更かさじといそぎしも
いかなる節を思ひおかまし


【現代語訳】
竹河を歌って夜遅くならないようにと
急いでお帰りになったのに
どんな深い心があると思えばよいのでしょうか

「竹河」とは催馬楽の曲名のことで、
薫と藤侍従が声を合わせて歌っています。

「竹河」の詞の内容は、斎宮を務める女性に
恋を寄せるというもので、
薫は自身の恋心を「竹河」に託して歌いました。

※薫は、玉鬘の娘・大君に思いを寄せていた。

橋姫はしひめ」の巻

物語中で薫が宇治の大君に詠んだ和歌が
由来となっている巻名です。

橋姫の心を汲みて高瀬さす
棹のしづくに袖ぞ濡れぬる


【現代語訳】
姫君たちのお寂しい心をお察ししまして
浅瀬を漕ぐ舟の棹の雫で袖が濡れるように
涙で袖を濡らして泣いています

橋姫とは、宇治の姉妹のことを
「宇治の橋姫」に喩えたもの。

「宇治の橋姫」とは
宇治川の宇治橋に祀られている守護神。
和歌の世界では、宇治の橋姫は
可愛らしい女神として詠まれている。

椎本しいがもと」の巻

薫が亡き八の宮を忍んで詠んだ和歌が
由来となっている巻名。

立ち寄らむ蔭と頼みし椎が本
空しき床になりにけるかな


【現代語訳】
立ち寄るべき蔭と
信頼していた椎の木の根元は
空しい床になってしまったな

この和歌は、『宇津保物語』に見られる
次の歌を踏まえています。

優婆塞うばそくが行ふ山の椎が本
あなそばそばし床にしあらねば」

【現代語訳】
優婆塞が修行する山の椎の木の根元は、
床ではないので
なんと居心地が悪いことだ

『源氏物語』の和歌では、
優婆塞であった宇治八の宮を
椎の木に喩えている。

優婆塞とは、出家していない
男性の仏教信者のこと。

総角あげまき」の巻

八の宮一周忌の準備の際に、
薫が大君に詠んだ和歌が由来となった巻名です。

あげまきに長き契りを結びこめ
同じ所に縒りも会はなむ


【現代語訳】
総角あげまきに末長い約束を結びこめて
あなたと一緒になりたいものです

催馬楽の「総角あげまき」を踏まえた和歌。
「総角」とは紐のことも指すが、
ここでは「角髪みずら」と呼ばれる
古代の子どもの髪型のこと。

催馬楽の「総角」は
相思相愛の男女の子どもが
最初は離れて寝ていたが、
いつの間にか一緒に寝ていたという内容の歌謡。

早蕨さわらび」の巻

初蕨を贈ってきた阿闍梨に対して、
中の君が詠んだ和歌が由来となっている巻名です。

この春は誰れにか見せむ亡き人の
かたみに摘める峰の早蕨


【現代語訳】
今年の春は誰にお見せしましょうか
亡き人の形見として摘んだ峰の早蕨を

姉の大君が亡くなってしまい、
亡き人(父八の宮)の忘れ形見としての初蕨を
見せる相手がいないと嘆く和歌です。

早蕨とは、芽を出したばかりの蕨のこと。

宿木やどりぎ」の巻

物語中で薫と弁の尼が詠んだ和歌が
由来となっている巻名。

薫の独詠歌
宿り木と思ひ出でずは木のもとの
旅寝もいかにさびしからまし


【現代語訳】
昔泊まった家だと思い出さなかったら
木の下の旅寝も
どんなにか寂しかったことでしょう


弁の尼の唱和歌
荒れ果つる朽木のもとを
宿りきと思ひおきけるほどの悲しさ


【現代語訳】
荒れ果てて腐った木のもとを
昔の泊まった家と
思っていてくださることが悲しいです

宇治の山荘の庭では、深山木に蔦が
絡みついていました。
宿り木とは、この蔦のこと。

歌の中では、
「宿り木」と「宿りき(泊まった)」
を掛け言葉として用いています。

東屋あずまや」の巻

薫の独詠歌が由来となっている巻名です。

さしとむる葎やしげき東屋の
あまりほど降る雨そそきかな


【現代語訳】
扉を閉ざすほど
雑草が生い茂っているせいでか
東屋であまりにも待たされて
雨に濡れることよ

催馬楽の「東屋」の歌詞を踏まえた
和歌です。

催馬楽の「東屋」は、
「東屋の軒先から落ちる雨だれに
濡れてしまった。早く戸を開いてくれ」
という内容の歌謡。

浮舟うきふね」の巻

物語中で、浮舟が匂宮に詠んだ返歌が
由来となっている巻名です。

橘の小島の色は変はらじを
この浮舟ぞ行方知られぬ


【現代語訳】
橘の小島の色は変わらなくても
この浮舟のような私は
どこへ流れて行くのでしょう

浮舟と匂宮は小さな舟に乗って、
対岸の家を目指し、宇治川を横断しました。

浮舟は自分の身の上を、行方の定まらない
小舟に喩えてこの和歌を詠みました。

蜻蛉かげろう」の巻

宇治の姉妹たちとの
儚く悲しい縁を想いつつ
薫が詠んだ独詠歌が由来となっている巻名です。

ありと見て手にはとられず見れば
また行方も知らず消えし蜻蛉


【現代語訳】
そこにいると見えても
手に取ることはできない
見えたと思うとまた行く方知れずになり
消えてしまった蜻蛉かげろう

夕暮時、蜻蛉が頼りなさそうに
飛び交っているのを見ながら、
薫はこの歌を詠みました。

手習てならい」の巻

横川僧都に助けられた浮舟が、
慰めに手習をして和歌を書き、
気持ちを表現したことに由来する巻名です。

手習とは、毛筆で仮名や漢字などを書く練習をすること。

夢浮橋ゆめのうきはし」の巻

本文中に「夢浮橋」という言葉は登場しません。

以下の、出典未詳の和歌が関連していると
考えられています。

世の中は夢の渡りの浮橋か
うち渡りつつものをこそ思へ

【現代語訳】
男女の仲というものは
夢の中で渡る浮橋のようなものなのか
橋を渡って逢瀬を重ねながらも
悩みが絶えないものだ

まとめ

この記事では、『源氏物語』54帖の巻名の
意味と由来について解説してきました。

54帖の覚え方とあらすじについては、
こちらの記事で簡単に紹介しています。

『源氏物語』に出てくる和歌は全部で795首あります。
全ての和歌はこちらの記事で紹介しています。

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