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撫子
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30代後半の主婦。
高校生の頃から源氏物語に興味を持ち始めました。大学では源氏物語を研究し、日本語日本文学科を首席卒業しました。
30代になり、源氏物語を改めて学びなおしています。
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【源氏物語】宇治十帖はなぜつまらないのか?理由を考察しました。

宇治十帖はなぜつまらないのか?理由を考察しました。

源氏物語 初心者
『源氏物語』の「宇治十帖」って本編に比べたらつまらないよね…?


宇治十帖はつまらない
と感じる人は多いです。

筆者
Xで検索してみると、宇治十帖の感想が、否定的なものも、肯定的なものも色々でてきました。


この記事では、

  • 宇治十帖をつまらないと思う理由
  • 宇治十帖を面白いと思う理由

双方の観点から考察してみました。

目次

宇治十帖をつまらないと感じる理由

なぜ宇治十帖はつまらないのでしょうか?
以下にあげる5つの理由が考えられます。

1.光源氏が出てこない

宇治十帖は、
光源氏が亡くなった後の物語なので、
当初の主人公である光源氏が登場しません。

筆者
光源氏は、良い意味でも悪い意味でも、『源氏物語』の絶対的な主役なのです!『源氏物語』=光源氏のイメージが成立しています。それなのに、光源氏が出ないとなると、読者の興味は半減してしまいます。


光源氏の恋愛遍歴と人生は、
読者の心をつかみ、魅了しました。

「クズ」と称されることも多い光源氏ですが、
クズエピソードも含め、
その人生は栄華物語として非常に面白く読めます。

准太上天皇となった光源氏。四十の賀の様子。
玉鬘(左端)が光源氏(中央)に若菜の膳を奉る場面。
『源氏物語子の日・若菜図屏風』(部分)狩野養信筆 遠山記念館蔵
准太上天皇となった光源氏。四十の賀の様子。
玉鬘(左端)が光源氏(中央)に若菜の膳を奉る場面。
『源氏物語子の日・若菜図屏風』(部分)狩野養信筆 遠山記念館蔵

しかも、単なる栄華物語に終わらず
「若菜」の巻以降には
正室となった女三の宮の裏切りと、
最愛の妻・紫の上の死が描かれ、
輝きしかなかった光源氏の人生に影が落ち、
やがて命の終焉に向かう様まで描かれています。

『源氏物語』本編(第一部~第二部)
における光源氏の物語はあまりにも傑作でした。

ゆえに、読者は光源氏の登場しない宇治十帖に
物足りなさを感じてしまうのでしょう。

薫、匂宮のキャラクターは、
光源氏に比べるとどうもパンチが足りず、
本編のストーリーほどの盛り上がりを感じないのです。

源氏物語 初心者
薫と匂宮を足しても、光源氏ほどのインパクトは生まれないね…。

2.薫が嫌い/浮舟が可哀想

宇治十帖の主人公である薫は、
読者から非常に嫌われやすいキャラクターです。


なぜ嫌われているかというと、
浮舟を、亡くなった大君の身代わりと
してしか見ていなかったからです。

薫は浮舟を浮舟として愛していませんでした。身分の低い浮舟を蔑む気持ちも感じられます。

『源氏物語扇面貼交屏風』「橋姫」部分 室町時代後期
浄土寺蔵

さらに薫は、愛人となった浮舟を
宇治の山荘に放置します。

筆者
放置している間に、浮舟は匂宮と男女の仲になり、浮舟は2人の貴公子の板挟みとなり深い懊悩の闇に落ちていくのでした。


薫は恋愛に不器用であるがゆえに
かなり冷たい印象を与える青年です。

源氏物語 初心者
一人の愛人として大切にしてもらえない浮舟が可哀想だね。


光源氏も藤壺の宮の身代わりとして
紫の上を愛しましたが
紫の上を紫の上として愛するようになっていくし
生涯にわたって最愛の妻として大切にしています。

光源氏と薫の性格を比べると、
薫の不甲斐なさにガッカリしてしまいますね。

3.宇治の話がダラダラと続く

宇治十帖のストーリーは、メリハリが少なく、
宇治を舞台とした恋物語(心理小説)がダラダラと続きます。


光源氏の物語は、舞台や登場人物が
巻ごとに変わって読者を飽きさせません。

宇治十帖は、光源氏の物語と比べると
長く冗漫でつまらない、飽きやすいと言えるでしょう。

源氏物語 初心者
それ!宇治のお話がダラダラ続いて読むのに忍耐が必要…。

4.「笑われ役」が登場しない

『源氏物語』の第一部では、
末摘花、源典侍、近江の君といった
笑われ役の女性が登場します。

彼女たちの出てくる部分のストーリーは、
コメディ要素をそなえていて、大変面白いです。

宇治十帖では、そのような笑われ役が
一人も出てこないため、物足りません。

源氏物語 初心者
確かに、宇治十帖には面白いキャラクターが出てこないね。

5.華やかな宮廷文化の描写が少ない

『源氏物語』の第一部では、
華やかな宮廷文化を描写が読者を楽しませます。

「紅葉賀」の巻/桐壺帝御前での試楽
「花宴」の巻/紫宸殿の桜花の宴
「絵合」の巻/宮中での絵合

などの宮廷文化に加え、

「初音」の巻/華やかなな新春の様子
「胡蝶」の巻/春の町の船楽
「蛍」の巻/玉鬘が蛍の光に照らされる

など六条院の描写も、
まるで目に浮かぶように華やかです。

六条院の華やかな正月。
明石の姫君の前には、「御歯がため」の豪華な祝膳が置かれている。
『源氏物語色紙絵 初音』(部分)土佐光吉筆 和泉市久保惣記念美術館蔵
六条院の華やかな正月。
明石の姫君の前には、「御歯がため」の豪華な祝膳が置かれている。
『源氏物語色紙絵 初音』(部分)土佐光吉筆 和泉市久保惣記念美術館蔵
童のささげ持つ硯の箱の蓋には、菊や紅葉がのせられ、秋好中宮からの手紙が添えられている。
これに対する紫の上の返歌が、「胡蝶」の巻の華やかな船楽につながっていく。
『源氏物語画帖』土佐光吉ほか筆 桃山時代
女童のささげ持つ硯の箱の蓋には、菊や紅葉がのせられ、秋好中宮からの手紙が添えられている。
これに対する紫の上の返歌が、「胡蝶」の巻の華やかな船楽につながっていく。
『源氏物語画帖』土佐光吉ほか筆 桃山時代

宇治十帖は宇治を中心にした
心理小説なので華やかな描写は少なく、
暗く、陰鬱な印象を与えます。

宇治十帖を面白いと感じる理由

源氏物語 初心者
宇治十帖を面白いって感じる人もいるのかな?


Xで検索してみると、
宇治十帖に対して好意的な意見も見られました。

宇治十帖は、どういったところが
面白いのでしょうか?

以下の4つの理由があげられます。

1.三角関係の心理小説として楽しめる

宇治十帖は、質の高い心理小説となっています。

薫、匂宮、宇治の姉妹(大君・中君・浮舟)それぞれの心理を刻銘に描き出しています。

特に後半の、
薫、匂宮、浮舟の三角関係
浮舟の決断は読者の心を惹き付けます。

確かに冗漫に感じるところはあるし、
華やかさには欠けますが、
自分勝手な貴族男性と翻弄される
宇治の姫君の心理を追って読んでいくと
宇治十帖の厭世的でジメジメした世界に
没入していくような
陶酔していくような気分を味わうことができます。

源氏物語 初心者
確かに読むのは大変だけど、心理描写は素晴らしいよね!

2.浮舟に共感する

宇治十帖の後半のヒロイン浮舟は、
自己主張をせず、母親の意向に従って生きてきた女性
です。

現代でも子どもに過干渉な、いわゆる「毒親」
といわれる母親の話はよく聞きますよね。

筆者
毒親に支配されて自己主張を禁じられてきた人たちは、浮舟の置かれた状況に共感することでしょう。


また、女性が2人の美男子から愛される状況は、
現代の恋愛ドラマでもよく見る構図です。
「ヒロインがモテモテ」というのは、
今も昔も多くの女性たちが憧れる設定であり、
楽しんで読むことができます。

舟に乗って和歌を詠み合う匂宮と浮舟
「綾杉地獅子牡丹葵紋蒔絵調度」のうち
『池田家伝来 貝合わせ道具』 江戸時代 林原美術館


源氏物語 初心者
「浮舟」の巻で、浮舟が薫と匂宮の間で悩むところ好き。なんでどっちか好きなほう選べないのっ?てイライラするけどね!

3.人間くささ/生々しさが面白い

光源氏は、須磨・明石の巻で
よく表されているように
神のような性質を持った人物として描写されています。

ところが、宇治十帖で登場する
薫や匂宮は、光源氏と比較すると
非常に人間くさく、俗物なのです。

欲望、失敗、後悔、未練
といった人間くささに焦点をあてたのが
宇治十帖のストーリーです。

筆者
光源氏も女性関係ではじゅうぶん俗物ですが、薫と匂宮はもっと生々しい、人間らしさを感じさせます。

光源氏の物語が「伝説」っぽいのに対して、
宇治十帖はまるで「現代小説」のようです。

光源氏の物語とは趣向を変えて、
生々しい宇治十帖の物語は逆に新鮮で面白く感じます。


源氏物語 初心者
生々しい心理小説として楽しめるってことだね!

4.貴族女性の懊悩からの解放が描かれている

宇治十帖には、人生に悩む貴族女性を
どのように懊悩から解放させるか?が書かれています。

薫からの求愛に悩んだ大君は、
食事を拒否することによって病死に至り
死をもって懊悩から解放されました。

中君は匂宮の妻となる運命を受け入れ、
好色な匂宮の浮気に悩まされながらも
妻の一人として大切にされます。

薫と匂宮の板挟みに悩んだ浮舟は、
宇治川に入水後、出家をすることで
懊悩から解放されました。

光源氏の物語が、光源氏の栄華と衰退を
描いているのに対し、
宇治十帖は、女性の解放の手段について
模索していくストーリーとなっています。


平安時代の貴族女性の生きづらさが
読者にひしひしと伝わり、
いつの間にか宇治の姉妹に感情移入して
夢中でストーリーを追っています。

筆者
暗いストーリーですが、宇治の姉妹の三者三様の人生を読んでいくと、考えさせられるものがあります。


源氏物語 初心者
光源氏の物語では、真の主役は女君たちだったよね。宇治十帖でも、本当の意味での主役は、薫でも匂宮でもなくて、宇治の姉妹なのかも知れないね。

まとめ

この記事では、

・宇治十帖をつまらないと思う理由
・宇治十帖を面白いと思う理由

をそれぞれの観点から解説しました。

筆者の個人的な意見ですが、
私も宇治十帖よりは、本編の光源氏を中心とした
物語のほうが好きです。

宇治十帖は、ダラダラと冗漫な印象があって
読むのに少し忍耐が必要でした。
でも、宇治十帖がつまらないとは思いません。

特に浮舟が登場してからの
三角関係の展開が好きです。
情熱的な匂宮に惹かれてしまう浮舟が、
とても可愛らしいなと思います。

三角関係に悩んだ末、浮舟が選んだ手段が
入水、そして出家だったことは悲しい結末ですが、
『源氏物語』という物語の最後として非常に美しく
最もふわさしい結末だと感じました。


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