この記事では、『伊勢物語』の四十九段「若草」の
原文・現代語訳・解説を掲載しています。
『伊勢物語』四十九段「若草」:原文・現代語訳
【現代語訳】
昔、男が、妹のとても可愛らしい様子を見ていて、
♪若々しいから、添い寝したく見える若草のような可愛いなたを、他人が妻とすることを悔しく思います
と申し上げました。返しの歌、
♪なんて思いもよらぬ言葉でしょうか。きょうだいだから、私はあなたを無邪気な気持ちで思っていたのですよ
【原文】
むかし、男、妹のいとをかしげなりけるを見をりて、
うら若みねよげに見ゆる若草を人のむすばむことをしぞ思ふ
と聞えけり。返し、
初草のなどめづらしき言の葉ぞうらなくものを思ひけるかな
妹:在原業平に妹がいたかどうかは
不明である。
初草の:「めづらしき」にかかる枕詞。
解説:『源氏物語』との関連
男が妹に言い寄る近親相姦の雰囲気が
漂う章段ですが、男も妹も本気ではなく
軽い冗談の応酬のような遣り取りなのでしょう。
『伊勢物語』四十九段の和歌は、
『源氏物語』「若紫」巻の和歌に
影響を与えていると言われています。
こちらの記事で詳しく解説しています。


「若紫」巻は、『伊勢物語』初段の
影響も受けています。
初段と四十九段の間には
何のつながりもありませんが、
紫式部はこの2つの章段をつなぎ合わせ、
「若紫」巻の構想を練ったのです。
「総角」巻でも、『伊勢物語』四十九段が
引用されています。
【原文】
在五が物語を描きて、妹に琴教へたる所の、「人の結ばむ」と言ひたるを見て、いかが思すらむ、すこし近く参り寄りたまひて、
「いにしへの人も、さるべきほどは、隔てなくこそならはしてはべりけれ。
いと疎々しくのみもてなさせたまふこそ」【現代語訳】
『源氏物語』「総角」より引用
在五中将の物語(伊勢物語)を絵に描いて、妹に琴を教えている場面の、「人の結ばむ」と詠みかけているのを見て、(匂宮は)どのようにお思いになったのであろうか、(姉女一の宮の)少し近くにお寄りなさって、
「昔の人も、こういう間柄では、親しくしているものですよ。とてもよそよそしい扱いばかりなさるのがつらいです」
※「妹に琴教へたる」とありますが、
『伊勢物語』で琴が出てくる本文は、
時頼本や最福寺本など一部を除いて、
ほとんどの写本にはありません。
匂宮は、美しい姉女一の宮に近寄り、
『伊勢物語』四十九段を引用しつつ
たわむれかかります。
この後に、匂宮が詠む和歌も、
四十九段の影響を受けています。
若草のね見むものとは思はねど
『源氏物語』「総角」より引用
むすぼほれたる心地こそすれ
【現代語訳】
若草のように美しいあなたと一緒に寝たいとは思いませんが
晴れ晴れしない気がします
この和歌は、四十九段の
「うら若みねよげに見ゆる若草を人のむすばむことをしぞ思ふ」
と同じような趣ですね。
「若草」という言葉を引用している時点で、
わかりやすく影響を受けていると言えるでしょう。










