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撫子
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30代後半の主婦。
高校生の頃から源氏物語に興味を持ち始めました。大学では源氏物語を研究し、日本語日本文学科を首席卒業しました。
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伊勢物語:六段「芥河」の解説・原文・現代語訳

伊勢物語:六段「芥河」の解説・原文・現代語訳

この記事では、『伊勢物語』
六段「芥河」の
原文・現代語訳・解説を掲載しています。

『伊勢物語』とは、在原業平(825~880)の和歌や逸話をもとに、作られた歌物語です。

目次

『伊勢物語』六段「芥河」:原文・現代語訳

【現代語訳】
 昔、男がいました。思いを叶えられそうにない女に対して、何年も求婚し続けていましたが、やっとのことで盗み出して、とても暗い夜に連れて逃げてきました。芥河あくたがわという河のそばまで、女を連れて行ったところ、女は草の上におりたつゆを指して、「あの光っているものは何」と男にたずねました。男はまだ遠くに逃げねばらず、夜も遅くなったので、鬼の棲む所とも知らずに、雷まで非常に激しく鳴り、雨もひどく降ってきたから、道中で見つけた荒れ果てて人のいない倉の奥のほうに、女を押し入れました。男が弓と胡簶やなぐいを背負って戸口のところで、「早く夜が明けるといいな」と思いながら座って見張りをしている間に、鬼が女をたちまち一口で食べてしまいました。女は「ああっ」と悲鳴をあげましたが、雷の大きな音にかきけされて、男には聞こえませんでした。だんだん夜が明けていき、薄暗い中で見ると連れて来た女がいません。男は足を床にすりつけて悔しがって泣くけれど、いまさらどうしようもないことです。

♪真珠かしら、何かしらとあの人がたずねた時、「露だよ」と答えて、露のように私の身も消えてしまっていたらよかったのに

このお話は、二条の后が、従姉妹いとこの女御のもとに、お仕えする形でいらっしゃった時のことです。后はたいへんお美しい容貌をしていらっしゃったので、男が恋い慕うようになり、盗み出して背負って行ったところ、后の兄の、(三男)堀河大臣基経ほりかわのおとどもとつね、長男国経大納言くにつねのだいなごんといった方々が、その時はまだ高い身分ではなくて、参内なさる際に、ひどく泣く人がいるのを聞きつけて、男が后を連れて行くのを引き止めて、后を取り返しなさったのです。それをこのように鬼といったのです。后がまだずっと若くて、入内なさる前の時のことだとか。

【原文】
 むかし、男ありけり。女のえまじかりるを、年をてよばひわたりけるを、からうじて盗みいでて、いと暗きに来けり。芥河あくたがはといふ河をていきければ、草の上に置きたりけるつゆを、「かれはなにぞ」となむ男に問ひける。ゆく先おほく、夜もふけにければ、ある所ともしらで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる倉に、女をば奥におし入れて、男、弓、胡簶やなぐひを負ひて戸口にをり、はやも明けなむと思ひつつゐたりけるに、鬼はや一口に食ひてけり。「あなや」といひけれど、神鳴るさわぎに、え聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見ればし女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。

白玉しらたまなにぞと人の問ひし時つゆとこたへて消えなましものを

これは二条の后の、いとこの女御の御もとに、仕うまつるやうにてゐたまへりけるを、かたちのいとめでたくおはしければ、盗みて負ひていでたりけるを、御せうと堀河ほりかは大臣おとど太郎国経くにつねの大納言、まだ下﨟げらふにて、内裏うちへ参りたまふに、いみじう泣く人あるを聞きつけて、とどめてとりかへしたまうてけり。それをかく鬼とはいふなりけり。まだいと若うて、后のただにおはしける時とや。



芥河
大阪府高槻市の芥川
であるという説や
内裏の塵芥を流す大宮川
の異称であるという説などがある。

「かれは何ぞ」
将来の后として大切に育てられてきた
深窓の令嬢ゆえに、草の上に置く
露を見たことがない。
そのため「あれは何?」と
男にたずねた。


目に見えない霊的な存在であり、
人を食べる。

胡簶
矢をさして背負う道具。

二条の后
藤原長良の娘・二条后高子。

いとこの女御
藤原良房の娘・染殿后明子。
長良と良房とは兄弟。

堀河の大臣
藤原基経。長良の子(三男)
叔父良房の後継者。
摂政関白太政大臣となる。
二条后高子の兄。

太郎国経の大納言
長良の子(長男)
二条后高子の兄。

解説:『源氏物語』との関連

『伊勢物語』六段では、
女を盗み出して京を出たものの
あばら屋にて女が鬼に食われてしまう
という悲劇的結末が語られています。
この次の段からは、このことが原因と
なったかのように、男が東国に漂泊する話が
語られています。

女を盗み出して、連れて行った先で
その女が死んでしまうという筋書きは、
『源氏物語』の「夕顔」巻と類似しています。
「夕顔」巻のストーリーは、
『伊勢物語』六段の影響を受けている可能性があります。

以下の記事で詳しく解説しています。

六十五段では、二条の后は
藤壺の宮もしくは、朧月夜の君を
思わせる人物でした。

この六段では、二条の后は
夕顔のような人物です。

『伊勢物語』では二条の后という
一人の女性として語られているところを、
『源氏物語』では藤壺の宮であったり
朧月夜の君であったり、
夕顔であったり、
複数人の女性の話として語られているのです。
それは、朧月夜や夕顔が、
あくまで藤壺の宮の身代わりにすぎない
ということを現しているのではないでしょうか。


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