「あさきゆめみし」という
古めかしい言葉を、聞いたことがある人も多いでしょう。
現代では、まふまふというアーティストの
曲のタイトルになったり、
大和和紀さんの漫画のタイトルに使われたりしています。
「あさきゆめみし」
その謎めいた言葉の意味が気になっている人は
多いのではないでしょうか?
ぜひ最後までお読みください。
あさきゆめみしの意味といろは歌全文
「あさきゆめみし」という言葉は、
いろは歌の一部分なのです。
いろは歌の全文
いろはにほへと
ちりぬるを
わかよたれそ
つねならむ
うゐのおくやま
けふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
漢字に直すと以下のようになります。
色は匂へど
散りぬるを
我が世誰ぞ
常ならむ
有為の奥山
今日越えて
浅き夢見じ
酔ひもせず
簡単に現代語訳をすると
以下のような意味となります。
<いろは歌の意味>
花の色は鮮やかだが、
いつかは散ってしまうように
この世の中で、誰が
変わらずにいられるだろうか。
無常のこの世を山を越えるように、
今日も生きていき、
はかない夢など見まい。
酒に酔ったりもすまい。
いろは歌の解説
いろは歌は、
仮名を重複させることなく作られた
七五調の韻文です。
いろは歌の作者は誰?
作者は不明。
弘法大師空海や源高明、柿本人麻呂が
作ったという説もありますが、
明確な根拠がありません。
いろは歌の成立年代はいつ?
「金光明最勝王経音義」(1079年成立)
(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)
に、いろは歌の記載があることから
西暦1000年前後に成立したと推測されています。
「金光明最王経」という仏教の経典の
漢字の音と意味を解説した書物。
436の漢字の音、意味を解説している。
いろは歌と五十音図もついている。
『金光明最勝王経音義』を入手しました。カラーかつ和綴じの立派な複製です。『金光明最勝王経音義』 は、『金光明最勝王経』というお経から難しい字を抜き出して日本語訳などをつけた書物で、平安時代末期のものです。いろは歌や五十音図が載っている最古の本で、声点もついています。 pic.twitter.com/1D3onlIIxU
— 中村明裕 (@nakamurakihiro) October 17, 2023
いろは歌が作られた目的
いろは歌が何の目的で
作られたかはわかっていません。
仮名の手習い(お習字)のお手本として
大正時代くらいまで広く用いられていました。
いろは歌の内容
いろは歌の内容は、
仏教的な無常観に基づく内容となっています。
いろは歌と宗教の関係については、
この記事の後半にて詳しく解説しています。
⇒いろは歌は宗教と関係ある?
あさきゆめみしの意味
「あさきゆめみし」は
先述したようにいろは歌の一部であり、
漢字で書くと「浅き夢見し」となります。
<「浅き夢見し」:「し」を清音で読む場合>
「見る」の連用形「み」に
過去を表す助動詞「き」の連体形「し」が
ついたと解釈され、
「浅い夢を見ていた」という意味になります。
<「浅き夢見じ」:「し」を濁音「じ」で読む場合>
「見る」の未然形「み」に
打消し意志の助動詞「じ」
の終止形か連体形「じ」がついたと解釈され
意味は「浅い夢を見たくない」という意味になります。
「浅き夢見し」の後には、
「酔ひもせず」と続きますから、
「し」を打ち消しの助動詞として
「浅き夢見じ」と理解するのが自然です。
「欲望の絡んだ浅い夢など見たくない」という
悟りの境地を目指す仏教的な意味を持っています。
大和和紀の漫画「あさきゆめみし」のタイトルの由来は?
大和和紀さんの有名な漫画
「あさきゆめみし」は源氏物語のコミックです。
「あさきゆめみし」というタイトルは、
担当の編集者さんが考えてくれたものなのだそうです。
インタビューで、
「あさきゆめみし」作者の大和和紀さんは、
次のように語っていらっしゃいます。
担当は、どこかの段階で私がオリジナルの話に変えていくんじゃないかと思っていたようです。
「完全保存版 あさきゆめみしの世界」より引用
(中略)
私の創作が入り込んできたときの予防線を張るつもりだったんだと思います
要するに、
「あさきゆめみし」というタイトルは、
【原作を離れ創作色が強くなっていっても大丈夫なように】と
担当編集者さんの配慮でつけられたものということです。
連載開始直後はまだ、
「あさきゆめみし」はどれくらい続くのか?
どれくらい原作に忠実に描くのか?
未定だったので、
漫画のタイトルを「源氏物語」から
離れたものにした。
タイトルになったわけだね!
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「源氏物語」は
「世の無常」や「因果応報」といった
仏教的な思想が強く出ている古典文学です。
いろは歌は仏教的無常観がベースになった
韻文ですから、「あさきゆめみし」は
源氏物語の漫画版のタイトルとしてピッタリですね。
漫画「あさきゆめみし」の中で、
「あさきゆめみし」という言葉が登場するのは
第一部の結末です。
世の無常を悟り出家した光源氏が
亡くなったことが示唆された後、
いろは歌の全文が記載され、
「あさき 夢みし……」で物語の幕を下ろしています。
いろは歌の意味が怖いと言われる理由
いろは歌が怖いと言われている理由を解説します。
「金光明最勝王経音義」などの
古文献において、いろは歌は
不自然に七文字に区切られて書かれていることがあります。
いろは歌を七文字に区切って、
各行の末尾を縦読みしてみると…
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
とがなくてしす
つまり、
「罪を犯すことなく生命を終える」
という意味の暗号が浮かび上がるのです。
いろは歌は源高明が作ったという
説があります。
いろは歌に隠された意味「とがなくてしす」を
「無実の罪で自分はこの世を去る」という
意味に解釈すると、
源高明がいろは歌を作ったという説が
現実味を帯びてきますね。
いろは歌は宗教と関係がある?
いろは歌と仏教
いろは歌は、
仏教的無常観に影響された内容の歌です。
「大般涅槃経」にある、
無常偈(むじょうげ)の一部の
意訳であると説もあります。
釈迦の入滅の意義を説く経典の総称のこと。
入滅:命を終え、生死を超越した境地に入ること。
無常偈 | 無常偈の意訳 | いろは歌 |
---|---|---|
諸行無常(しょぎょうむじょう) | 全ての事物は変わっていく | 色は匂へど散りぬるを |
是生滅法(ぜしょうめっぽう) | 生命のあるものは必ず滅びる | 我が世誰ぞ常ならむ |
生滅滅已(しょうめつめつい) | 生と死を滅して悟りの境地に入る | 有為の奥山今日こえて |
寂滅為楽(じゃくめついらく) | 悟りの境地を楽しみとする | 浅き夢見し酔ひもせず |
いろは歌とキリスト教
また、いろは歌がキリスト教と
関係があるという説もあります。
次のいろは歌を見てください。
3種類の暗号が浮かびあがってきます。
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
<1つめの暗号:いちよらやあゑ>
いろは歌を7文字ずつに区切って、
各行の最初の文字を縦読みすると
「いちよらやあゑ」になりますね。(青字部分)
「やあゑ」はヤハウェのことで、ユダヤ教の神の名。
「いちよらやあゑ」は「素晴らしいヤハウェ」という意味です。
<2つめの暗号:とがなくてしす>
いろは歌の各行の最後の文字を縦読みすると、
「とがなくてしす」。(赤字部分)
<3つめの暗号:いゑす>
また、いろは歌の最初の文字と、
最終行の最初と最後の文字をあわせると「いゑす」。
(黄色マーカー部分)
「いゑす」は、
キリスト教の開祖イエス・キリストのこと。
以上、3つの暗号をまとめると
「素晴らしいヤハウェの人イエス、咎無くて死す」となります。
詳しいことはハッキリとはわかっていませんが、
秦氏という3世紀頃に
朝鮮半島から来日した渡来系の豪族が
ユダヤ人の末裔であったという説があります。
歴史の教科書では、
室町時代の1549年が
日本に初めてキリスト教が伝来したと
されていますが、実はもっと昔に
伝来していた可能性があります。
聖徳太子誕生(574年生-622年没)の
エピソードがイエス・キリストの誕生シーンに
似ているということから、
飛鳥時代には既に伝来していたのでは?
と言われています。
いろは歌に隠された暗号が、
偶然なのか、故意なのかはわかりません。
その暗号にはどんな意味があったのか?
キリスト教の伝来は本当はいつだったのか?
歴史ミステリーが深まりますね。
よくある質問
- いろは歌の「有為の奥山」の意味は?
-
「有為」とは、仏教用語であり
生まれたり滅したりしている世界の全ての事物を指します。
要するに私たちが住んでいるこの世のことであり、
仏教では「迷いの世界」と捉えます。
「有為の奥山」とは、この世(迷いの世界)を
深い山に例えた表現です。
人間が迷いの深い山を
苦労して越えていく様子を表しています。 - いろは歌の「色は匂えど」の意味は?
-
「色は匂へど」の「色」は
般若心経の「色即是空」の「色」を意味します。
「色」は形あるもの全てを指します。
「色即是空」は、
「この世の形あるものの本質は【空っぽ】であり、
不変のものは存在しない」という意味です。
「色は匂へど散りぬるを」も
同様の意味となります。
「色」には「華やかさ」という意味もあるので、
「花は美しく咲くが、いつかは散ってしまう」
というふうにも訳されます。
「花の色」と「色即是空」の「色」
二つの意味をかけあわせた表現となっています。