・漫画「あさきゆめみし」と原作「源氏物語」の違い
「あさきゆめみし」は源氏物語のストーリーを
かなり忠実に描いていますが、
細かいところを見ていくと様々な違いがあります。
\あらすじはこちらの記事で解説/
この記事では、
「あさきゆめみし」と「源氏物語」の違いを
考察しました。
ぜひ最後までお読みください!
原作との違い①:人物の顔や姿が描かれている
漫画「あさきゆめみし」と原作の源氏物語の
違いとして最も大きいのは、
漫画では登場人物の顔や姿が描かれているというところです。
原作の源氏物語は小説であり、
挿絵はありません。
登場人物の顔や姿、
さらには建物の様子や風景など
すべて読み手が想像するしかありません。
しかし、「あさきゆめみし」は漫画なので、
当然、すべてがイラスト化されています。
作者・大和和紀さんによる想像力や
確かな時代考証により
顔や衣装、建造物や風景がしっかりと描かれているのです。
女君の顔の見分けがつかないデメリットも
漫画「あさきゆめみし」には
数多くの女君が登場します。
ほとんどの女君が髪が長くて美人なので、
誰が誰だか見分けがつきづらいと感じる人が多いです。
2年生の冬に世界史でフランス革命を勉強したことで『ベルサイユのばら』を読み、古典で若紫を読んで『あさきゆめみし』も読もうとしたけど姫君たちの顔の見分けつかなくて結局読めなかったから、いつかちゃんと読みたい!いつか!
— 夕顔 (@nananananairo__) September 8, 2020
しっかりと源氏物語のストーリーを
把握していないと、
「この姫は誰だっけ?」となります。
女君の見分けがつかないことで
ストーリーがわからなくなり、
「難しい」と挫折してしまうケースも。
大和和紀さんは微妙な雰囲気で
女君を描き分けているので、
うまく特徴をつかめないと難しいですね。
【あさきゆめみし】読んだことある人いるかな?
— Pまん (@mizo0424) February 3, 2023
少女漫画になった源氏物語。
最後まで女性の顔の識別できなかったのって自分だけ? pic.twitter.com/KsfmW5WZ4U
「あさきゆめみし」第42話、
紫の上の亡くなった後に、
光源氏が今まで関わった女君を回想する1コマがあります。
第42話は、「あさきゆめみし新装版5」に
掲載されています。
源氏物語の大まかなストーリーは、
こちらの記事で解説しています。
こういった知識があるだけでも、
「あさきゆめみし」の理解が楽になるはずです。
原作との違い②:逢瀬のシーンなど具体的な描写
漫画「あさきゆめみし」と原作との違いとして、
具体的な描写があげられます。
例えば、「若紫」の巻で、
光源氏が藤壺の宮と逢瀬を遂げる場面は、
原作では非常に簡潔な表現で描かれています。
【原文】
「若紫」の巻より引用
いかがたばかりけむ、いとわりなくて見たてまつるほどさへ、現とはおぼえぬぞ、 わびしきや。
【現代語訳】
(王命婦は光源氏を)どのように手引したのだろうか。(光源氏は藤壺に)とても強引にお逢い申している間さえ、現実とは思われないのは、辛いことである。
ところが「あさきゆめみし」では、
二人が抱き合うシーンなど、
かなり赤裸々に描かれているのです。
光源氏と藤壺のシーンは、
「あさきゆめみし 新装版(1)」に掲載されています。
若紫(紫の上)と光源氏が
初めて契りを結ぶシーンも、
原作ではこのようにシンプルに書かれています。
【原文】
「葵」の巻
しのびがたくなりて、 心苦しけれど、いかがありけむ、 人のけぢめ見たてまつりわくべき御仲にもあらぬに、男君はとく起きたまひて、女君はさらに起きたまはぬ朝あり。
【現代語訳】
(光源氏は)気持ちを抑えることができなくなって、(若紫のことが)可哀想だけど、どういうことだったのだろうか、周囲の女房には違って見えるところはなかったが、源氏は早くお起きになって、若紫は一向にお起きにならない朝がある。
このシーンも漫画「あさきゆめみし」では
かなり具体的に描かれています。
該当のシーンは、「あさきゆめみし新装版2」
に掲載されています。
源氏物語の原作では、
男女のシーンは
あまり詳しく描かれないことが多いが、
「あさきゆめみし」では、
作者の想像力で具体的に表現されている!
原作との違い③:人物の感情が強調されている
原作の源氏物語でも心情描写は豊富に書かれています。
しかし、
漫画「あさきゆめみし」では、
読者にわかりやすいよう、
さらに人物の感情が強調されています。
たとえば、「あさきゆめみし」では、
六条御息所が葵の上に対して
わたしはこの女が憎い…!
「あさきゆめみし 其の九」より引用
と憎悪の情を向けるシーンがあります。
確かに原作でも六条御息所は
葵の上を恨み、憎む心情が読み取れるのですが、
ここまでハッキリとは書かれていないので、
かなり強調されていると言えます。
また、
光源氏が須磨に流される際に、
藤壺の宮に挨拶に訪れるシーン。
「あさきゆめみし」では藤壺の宮は
涙を流しながら
以下のように強く光源氏に同情します。
かわれるものならばこの身にその重荷をおいたい……!
「あさきゆめみし 其の十三」より引用
あなただけを罪の中にさすらわせて
どうしてわたくしだけが安んじていられよう……
原作の源氏物語では、
挨拶のシーンで藤壺の宮はかなり冷淡なのです。
ですが、藤壺の宮は後に手紙にて
光源氏への同情と愛情を示す部分があります。
「あさきゆめみし」では
光源氏への藤壺の気持ちが
かなり強調して描かれていることになります。
原作との違い④:原作にはないシーンが補強されている
漫画「あさきゆめみし」には、
原作にはないシーンが描かれています。
例えば、冒頭で
桐壺帝と桐壺の更衣が初めて出会うシーン。
「あさきゆめみし」には
帝と桐壺の更衣が内裏の庭で出会う
ロマンチックなお話が描かれていますが、
原作ではそのような記載はありません。
すぐれて 時めきたまふありけり。
「桐壺」の巻より引用
【現代語訳】
きわだって深い寵愛を得ている女君がいた。
と語られているのみです。
また、
光源氏と藤壺の宮の出会いのシーンも、
「あさきゆめみし」では具体的に描かれています。
(池を覗く光源氏の後ろに、藤壺の宮が立つシーン)
原作にはそのような記載はなく、
父桐壺帝について藤壺に通ううちに、
自然と藤壺を慕うようになったと書かれています。
さらに、「あさきゆめみし」では
光源氏と花散里の出会いのシーンが回想として
語られていますが、原作には
そのようなエピソードは描かれていません。
花散里との回想シーンは、
「あさきゆめみし 新装版(2)」の
其の十二に描かれています。
「あさきゆめみし」には
原作にはないシーンが描かれていることがあるので、
認識しておきましょう。
原作との違い⑤:語り手が不在、会話が多い
原作の源氏物語には、
第三者としての語り手が存在しますが、
漫画「あさきゆめみし」には語り手はいません。
例えば、原作の冒頭、有名な一文を見てみましょう。
【原文】
「桐壺」の巻より引用
いづれの御時にか、 女御、更衣あまた さぶらひたまひけるなかに、 いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて 時めきたまふありけり。
【現代語訳】
どの天皇の御代であったか、女御や更衣がたくさんお仕えなさっていた中に、さほど高貴な身分ではないが、特別な御寵愛を集めていらっしゃる女君がいた。
これは特定の登場人物のセリフではなく、
語り手の言葉です。
源氏物語は最後まで、この一人の女性の「語り手」
によって語られていくのです。
原作と違い、
漫画「あさきゆめみし」には、語り手が登場しません。
「あさきゆめみし」冒頭部分は、
このような光源氏の独白によって始まります。
わたくしは母を知りません。
「あさきゆめみし 其一」より引用
はかなげで
少女のようで……
すきとおるように
美しい人だったといいます
愛だけによって生き
その生命を断ったのも
また愛であった……と
それ以降も、語り手は登場せず、
「あさきゆめみし」のストーリーは、
登場人物の会話や心情の吐露によって進行します。
その分、「あさきゆめみし」は
原作よりもかなり会話文や心情が
多くなっています。
原作では語り手が説明していることも、
「あさきゆめみし」では
会話文や独白として出てきているのです。
原作との違い⑥:空蝉のエピソードの順番が違う
原作では「桐壺」巻の後の
「帚木」「空蝉」の巻で、
光源氏と空蝉の逢瀬の物語が描かれます。
ところが「あさきゆめみし」では、
かなり後になってから(其の十八)
空蝉が登場するのです。
てかあさきゆめみし空蝉出てきてないんやが気のせい?????
— えす (@es__1221) February 2, 2023
光源氏と空蝉が逢瀬の関で再会する
エピソードが語られます。
(原作では「関屋」にあたる部分)
そこで回想シーンとして「帚木」「空蝉」巻部分の
エピソードが出てくるのです。
原作との違い⑦:ストーリーが省略されている
「あさきゆめみし」は「源氏物語」の
ストーリーをかなり忠実に漫画化していますが、
一部のストーリーは省略されています。
例えば、「夕顔」の巻。
原文では光源氏は、従者の惟光を使って
夕顔の素性を調査させます。
ところが、「あさきゆめみし」では
惟光の調査なしにいきなり
光源氏と夕顔が深い関係に発展しています。
また、「竹河」の巻のストーリーは
「あさきゆめみし」ではほとんど省略されています。
宇治十帖(宇治の三姉妹の物語)
に紙面を多くさくために、
玉鬘の娘のストーリーはカットしたのでしょうね。
まとめ:あさきゆめみしと源氏物語の違い
平安時代の古典文学である「源氏物語」と
昭和~平成にかけて連載された漫画「あさきゆめみし」
この記事で説明してきたように、
多くの違いがあります。
それは
源氏物語を漫画として面白く、
わかりやすく表現するためです。
作者の大和和紀さんは、
インタビューにて次のように語っていらっしゃいます。
源氏物語を少女マンガとして読ませるにあたって、いちばん意識したのは、読者に、これは難しい、と決めつけられないようにすることでした。
「完全保存版 あさきゆめみしの世界」より引用
(中略)
源氏物語を追うことは原作の行間を読んでいくことだったんです。
「あさきゆめみし」は、
丁寧に原作の行間を読む行為と
入念な時代考証により
古典文学初心者にもわかりやすく面白く
マンガ化されているのです。
あさきゆめみしを図書館で借りてみたら面白い。早く全巻読みたい。
— F (@ffffwmffff) May 25, 2024
ぽむことももっと本を読みたい!本の情報を得るためにスマホ!時間が足りない!
大和和紀さんが「源氏物語」を深く理解しているからこそ、
このようなアレンジが可能となったのでしょう。
漫画「あさきゆめみし」は
細かいところは原作とは異なりますが
源氏物語のストーリーや登場人物の特徴を
かなり正確に頭に入れることができます。
「あさきゆめみし」の作者・大和和紀さんの
インタビューの全文は、
「完全保存版 あさきゆめみしの世界」
に掲載されています。
「あさきゆめみし」を読破したならば、
ぜひ現代語訳にも挑戦してみてくださいね!
こちらの記事で、わかりやすい現代語訳を紹介しています。